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第二章『楔』 ページ1

豊臣の女中として日々働くAの毎日は忙しい。
基本的に教われば大抵のことはこなす彼女だが、たった一つだけ苦手なことがあった。

丁度手が空いたので、夕餉を作っていた料理番に「魚を焼いているから見ていてくれ」と頼まれ言われたとおり七輪で焼いている魚を見ていた。
しばらくして少し焦げたような匂いがしたためひっくり返そうと料理用の箸を手にしたまではよかったが、魚が網にくっついて中々離れなかった。

苦戦する度、魚は歪な形になっていく。
焼いているのが1匹だけならまだよかった。
忘れ去られたもう一匹の魚はどんどん焦げてしまい、見るも無残な姿に。


「……やっちゃった」


その場に漂う焦げ臭い匂い。
Aが肩を落としていると、偶然その場を通りかかった三成が異臭に顔を歪めた。


「焦がしたのか」

「……はい」

「以前も味噌汁を焦がしてなかったか?」

「うっ」


些細な一言がAの心を抉る。
昔から武芸ばかりでろくに料理をしなかったことが仇となった。

なんとか克服しようと最近は暇を見つけて台所に立っているが、そもそも包丁の扱いが危ないと指摘を受け、心折れかけている今日この頃。


「はぁ……こんなことになるならちゃんと学んでおくべきだった」

「嫁入りは致命的だな」

「余計なお世話です。そもそも、嫁ぎたくなかったから武芸に身を投じましたし」


拗ねた顔でボロボロになった魚と真っ黒に焦げた魚を皿の上に乗せる。


「そんなに嫌だったのか」

「だって、顔も知らない殿方の妻になるんですよ?お市さんみたいに相性がいい人が相手ならまだしも必ずそうとは限らない。それに……相手の方に想い人とかいたらヤじゃないですか」

「随分面倒なことを考えるな」

「私の母上がそうだったんですよ。想い人だった父上が別の女性と政略結婚しちゃったんです。まあ、そのあと色々あって二人は離縁して、母上が後室になるんですけど」

いつも無理して笑っていた母。
そんな母と自分を腫れ物のように扱っていた父。

誰も悪くない。
誰も悪くないはずなのに……。


娘であるAにいつも降りかかっていたのは、愛情という名の謝罪だった。


「……子どもながらにあんなの見てたら嫁入りなんてしたくなくなりますよ」

煩悶→



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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時

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