黄昏時ノ憂愁【猿飛佐助】

塗りつぶされた記憶 ページ10

佐助「は？」


かすがのカミングアウトを聞いた佐助は耳を疑った。

Aが、ずっと前に死んでいる？


佐助「いやいやいやかすが、冗談でも言っていいことと悪いことが…」

かすが「冗談でこんなこと言うはずがないだろ！」


かすがの叫び声は、合戦で戦う兵士たちによって徐々にかき消されていく。


かすが「もう一度ちゃんと見てこい佐助。Aが生きているはずないだろ。なんなら私も謙信様に許可を得てから同行して…」

佐助「じゃ、俺様がみたAは何？幽霊とでも言いたいのか？」

かすが「そうは言っていない。ただお前が見間違えて…」

佐助「なぁかすが、Aは…いつ死んだんだ？」


知らないうちに幼馴染一人が死んでいた事実に、佐助はまだ頭が追い付いていなかった。


かすが「いつって…」

佐助「俺様が武田に仕官して間もない頃か？それだったら知らなくても仕方ない…」

かすが「…そうか、確かお前はあの後…」

佐助「え？」

かすが「いや、お前が覚えていないのも無理はない。あの後私たちは術をかけられて…」

佐助「かすが、何の話しを…」


得体のしれない恐怖が佐助を襲う。

あの後とは？

術とは？

分からない。

何も、覚えていない。

思い出そうとしても一部の記憶だけが筆で黒く塗りつぶされたようになり、思い出せない。


佐助「かすがは…全部知っているのか？」

かすが「…生憎だが、全てという訳じゃない。私が覚えているのは何らかの理由で黄昏時にAが死んだこと。そしてその後お前と一緒に里の長から術をかけられたこと」

佐助「その術が記憶を塗りつぶすってやつ？だったらなんで、かすがはAが死んだこと覚えているのさ」

かすが「…分からない。ただ、里の長が私たちにこの術をかけたと言うことは…Aの死は私たちにとって都合が悪かったのか、それとも相当悲惨なものだったのかもしれない」

佐助「そんな理由で納得できるわけないでしょ」


佐助は頬杖から顔を離し、未だ戦いを続ける武田軍と上杉軍を見つめた。


佐助「明日…いや、この戦いが終わったらすぐにAの元に言って確かめて来る。本物のAじゃないなら注連縄切って俺様を騙したこと後悔させてやる…」


もし騙していたのなら、忍としては優秀だと普段なら褒めるところ。

だが、Aとの再会を心から喜んでいた佐助にとって、それはただ歯がゆいものでしかなかった。

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