黄昏時ノ憂愁【猿飛佐助】

浄化 ページ26

呪詛を纏うAは、両手で顔を覆って「ヤメテ」と呟いた。


A「ソンナ嘘ヲ、ツカナイデ」

佐助「嘘じゃない。Aは存在しているだけで意味があったんだ。Aが居たから知れたことだってあったし、学べたこともあった」


佐助はAの腕を顔から引き、視線を交わらせる。


佐助「アンタはもう死んでいる。それが事実だ。だから成仏して呪いなんて手放しちゃいな。一人が嫌なら、俺様も後を追うから」


佐助の言葉は、その場しのぎの慰めではなく、明らかに本気だった。

Aが望むなら、本気で命を絶とうとしている。


A「…」


ゆっくりだが、呪詛が消えていく。

Aが、誰かを恨まなくなった証拠だった。


A「もういい…もう十分、私は人を呪ったよ。地獄に落ちるのは、私だけでいい」


呪詛が消え、薄汚れたAの頬に一筋の涙が落ちた。


A「…巫女様、私をどうか浄化してください」


事の運びを見ていた鶴姫は、突然声をかけられ慌てて弓を構えた。


鶴姫「…もう未練はありませんか？」

A「ええ」

かすが「A…」


Aはかすがの方を見てにっこりと微笑んだ。


A「しいて未練があるとすれば…昔みたいに三人で流れ星を見れなかったことですから」

佐助「星なら、上を見てみな」


佐助に言われ、Aは空を見上げた。



真っ暗な闇の中に、点々と光る星たち。


昔見た、あの星空。


奇妙な形で再会した彼らは、また同じように三人で同じ空を見た。


星空に美しさに心を奪われながら、Aは鶴姫の放った矢と共に消えた。

＊＊＊＊＊＊＊

後日、再び川中島で相対した武田と上杉の戦場に佐助とかすがの姿が。


かすが「Aはもしかしたら、己では抑えきれぬほどの呪詛を持っていたのかもしれないな」

佐助「なんで？」

かすが「注連縄に縛られていても忍の里出身の者が死んでいった。あの時点で封じられていても少数なら呪うことが出来たということだろう。正直これで、よかったと思っている」

佐助「まあ全体的に見ればそうかもしんないけどさ…あれ、遠回しに俺様フラれたのかな？」

かすが「幼いころからAが全てだったんだ、ってところか？」

佐助「やめて。自分で言っといてなんだけど、よくよく考えたらものすごい恥ずかしいわそれ」

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