黄昏時ノ憂愁【猿飛佐助】

黄昏時の御伽噺１０ ページ22

全て、全て思い出した。

Aはあの日、佐助達の目の前で死んだ。


佐助「あああああああああ！」


あの日の記憶が完全に蘇った佐助は頭を抱え、もがき苦しんだ。

どうして今まで思い出せなかったんだろう。

随分昔にかけられた術をどうして解けなかったんだろう。

Aの事を思い出しても、記憶の追体験は終わらない。

Aが死んだ翌日、目を覚ました佐助の目の前にいたのは無数の『猿』だった。

大勢の『猿』が里で戯れていた。

目障りだった。

佐助は『猿』の群れを駆けながらAとかすがを探した。

それでも、目に映るのは『猿』だけで。

血迷った佐助は手当たり次第に『猿』を殲滅した。

人は誰もいない。

かすがは、Aは…どこにいるのだろう？

村の民が忍の里へ訪れた時には既に手遅れだった。

無数の『猿』の屍の上で、血濡れた幼い佐助が涙を流しながら彼らに頭を下げたのだ。

佐助は彼らにこう言ったのを覚えている。

佐助『俺、様(・)の友達は…どこにいる？』と。


かすが「佐助！」


ぱんっ、と頬に痛みが走った。

かすがは平手打ちした手とは逆の片手で頭を押さえつつ、呼吸を整えている。


かすが「…正気に戻ったか」

佐助「…A、は？」


Aの足首を縛っていた細い注連縄は切られ、A自体もその場にはいなかった。


かすが「Aは逃げた。 Aは呪いを完成させていたんだ。もしあの注連縄がAの力を封じるものだったとすれば…」


切れた注連縄を見つめながら佐助は、眉をひそめる。


かすが「私はAの後を追う」


記憶を取り戻し、かすがも内心では整理がついていないにも関わらず、冷静に状況を判断し動き出した。


佐助「…Aは、最初から俺様にこれを切らせるために…」


残された注連縄の部分を手に取り、佐助はそれをぎゅっと握りしめた。

Aが初めに狙うとすれば里の長。

だが彼はもう、里と共に命を絶っている。

復讐の矛先が無いとすれば、Aはどうするのだろうか？


『理性を殺せ。ひたすら俺を、全てを恨め。そうすればお前は呪いを操れる最強の忍になる』


記憶にあった長の言葉。


佐助「全て…まさかAは日ノ本全てを呪うつもりじゃ…！」


佐助の頭を過ったのは信玄や主の幸村の姿。

このままでは、全員が呪い殺されてしまうかもしれない。



いつの間にか忍の里には、注連縄だけが寂しく残されていた。

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