暴戻の片割【石田三成】

疑懼 ページ17

三成「駄目だ」


大阪城にいる秀吉、半兵衛に向けた文を書いていた三成は筆を静かに置いた。

後ろで頭を垂れているのは左近。


左近「お願いします三成様！一日だけでいいんっす！ちゃんと俺が見張りますから！」

三成「貴様は何もわかっていないな」


背広姿のまま、三成は左近の意見を否定した。


三成「Aを城下に連れて行きたいだと？奴を気に入りでもしたか左近」

左近「違うんです！話聞いてるとAって戦する事しか頭に無くて、他の事に興味を持たせたらいいんじゃ無いかって思って...」

三成「今日の見張りは貴様では無いはずだ。それに、奴は武者狩り。城下に出た瞬間、奴は逃げ出すかもしれない」

左近「ですから、俺がちゃんと見張って...」

三成「どうせ貴様は鉄火場へ行き、賽に夢中になって見張りなど忘れるだろう」

左近「うっ...」


思わず「確かに」と言葉が出ようとした。

賭け事に夢中になって周りが見えなくなる事も有り得る。その隙にAは逃げ出すかもしれない。


左近「でも、Aには枷が付いているんっすよ？そう簡単に逃げられ...」

三成「馬鹿か貴様。枷の付いた奴を城下に放り出せば公開処刑と間違われる。人が集まれば奴は殺しにかかる」

左近「それは、どういう事っすか...？」

三成「単発より、集団の方が奴は殺しがいを感じている。覚えておけ左近。Aは武者狩り、そこらの武士とは違う。奴を同じ人だとは思うな」

左近「...」

三成「そして今は豊臣の配下なれど、情は持つな。武者狩りのもう一人である奴の父親を始末すればすぐに奴も殺さねばならないからな」

左近「なっ...意味分かんねぇっすよ！自分の父親殺してまで豊臣に忠誠誓ってるってことじゃ無いんっすか!?」

三成「言っておくが、私が殺せと言ったのではない。奴は最初から父親を倒すつもりでいた。それに便乗し、半兵衛様が提案なされたのだ。奴が父親を殺せば武者狩りは終わる。それはこちらにしても好都合だとな。その後は奴次第」


左近は背筋にヒヤッとしたものを感じた。

今は大人しいAも、元を辿れば豊臣傘下の大名を壊滅まで追い込み、三成と互角に戦った者だ。

そんなAを警戒しない方がおかしい。

彼は改めて自分がどれだけ楽観的だったかを反省した。

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