11' 風邪 ページ13
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37.8度。
ピピピッと音を鳴らした体温計を見て、ため息をつく。
昨日、とてつもなく体調が悪かったのはシンプルに風邪をひいたかららしい。
外の景色は相変わらず雨で、まだ昼間なのに空は淀んでいて暗い。
故に平日の外は静かな時間に、寮の部屋で私は体を休めていた。
『さびしいなぁ…。』
ぽつんと呟くけれど誰かが部屋にいる訳でも無く。
少しでも顔の向きを変えるだけでも痛みが増す頭痛に
たった一人の寂しい空間で耐えていた。
正直言うと、この変則的な頭痛によって昨晩から眠れていない。
きっと気圧の変化の影響もあるのだろう。
でも、寂しい。今はそれしか考えられない。
いつしか眠気もピークを迎え、
気付かぬうちに私は眠りに落ちていた。
額にひんやりとしたものが乗せられたのを感じる。
冷たくて気持ちがいい。
今の私にとっては至高でしかなかった。
間が空くと、頬を撫でるような感触を得た。
手つきがとても優しく、
本当に誰かが撫でてくれているようで…
「……ご迷惑をおかけしてしまって、すみません。」
遠くで声が聞こえた気がして、そっと目を開ける。
意識が朦朧としていて視力が上手く機能しない。
でも、そこに居るのが誰かはわかる。
御曹司くんだ。
私が目を開けたのに驚いたのか、
頬に触れていた手は離されてしまった。
『ん…、きてくれたの?』
「その……、貴方にどうしても謝りたくて。」
段々と朦朧としていた意識も視力も機能しだして、
ベッドサイドにいる彼の俯き顔にはっきりと焦点が合った。
なんだかそれが無性に愛おしく感じた。
「わっ、?!」
むずむずする感覚に、無意識に彼の頭に手を伸ばしていた。
さっきまで空虚だったこの部屋に、
この人が来てくれたから寂しくない。
目の前でほんのり頬を赤らめている彼はどことなく幼くてかわいい。
『ふふん…かわいい。』
「…かわいいは、やめてください。」
『ん?どうして、?』
「立場的に…ほら。」
ああ、確かに。
そういえば腐っても私は奴 隷でした。
内省していると、ふと彼は自分の頭にあった私の手をそっと両手で包んだ。
「好きなんです。貴方のことが。」
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作者名:さな | 作成日時:2022年9月4日 21時