10' 紅茶 ページ12
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「!…司様!会いたかった〜♡」
「……」
え、と思わず声が漏れて彼女の視線の先を追うと、なるちゃんの少し後ろにこの一連の戦犯がいた。
それは私の姿を見るなり安堵したように息をつく。
今すぐにでもその綺麗な顔をぶん殴ってやりたいくらいだったが、腹の前でぐっと拳を堪えた。
……ん?なんかこっち来てない?
また憎まれ口を叩かれると思い、返す言葉を考えていると
気づけば、紅茶の香る腕に包まれていた。
「あら、司ちゃん…」
「えっ、嘘…!!」
目の前にはもう温もりしか無くて、一瞬身を預けてしまいそうになる。
しかし、居た堪れなくなり胸をぐっと押す。
「…失礼ですが、Lady。お引き取り願います。
これ以上学院に迷惑を掛けるのであれば、こちらも相応の対処をせざるを得ません。」
そう言うと、さっきより抱き締める力を強めた。
私も先程から体調が悪いせいか力が入らず、
力が抜けた頃には相手の心音が聞こえるほどだった。
耳を澄ますと心臓は大きく鳴っていた。
緊張してるんだ、って嬉しくなって
それがなんだか心地良くて、そっと目を閉じた。
だからあの後のことはよく覚えていない。
唯一惚けた頭で覚えているのは、あの許嫁の綺麗な泣き顔。
さっきまで御託を並べていたのが嘘かのように
ものすごく静かで綺麗な泣き顔だった。
そして、ここは保健室。
起きたらここに居ました。
佐賀美先生もいないみたいだし、さっきから数分程天井を仰いでいる。
『あーあ…退屈だし、頭痛いし、寒い…。』
もしかしたら許嫁が原因じゃなかったり…。
まあ、いいや。治るまで何か別のことを考えよう。
『あ、なずに衣装案見せないと。』
ES制度が導入されてから、アイドル達は4つの事務所に配属された。
私たちプロデューサーも春から専門の学科が正式に出来る。
考えてみると残り半年とちょっとしか夢ノ咲には居られない。
ビルの建設やアンサンブルスクエアの拡大。
夢ノ咲の生徒、その他玲明や秀越の生徒はそれに振り回されている。
『ほんと、嫌になっちゃうな……』
そう言って、自分のブレザーについた紅茶の香りに気づいて少し嬉しくなった。
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作者名:さな | 作成日時:2022年9月4日 21時