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「瑛一!一緒に回らない?」
真也くんがまっさらな笑顔で駆け寄ってきた。その後ろには舞子さんもいて。
ふと時計を見る。9時過ぎだった。
「ごめん!ちょっと行くとこあるんだ!その後合流出来たらしたいんだけど」
「あーおけおけ。ラインしてよ。じゃまた後で!」
ひらひらと手を振って、僕たちは分かれた。
意味のない行動だって事は分かってる。でもせめて1人でも見に行こうと思った。
本当は2人で見るはずだった、約束したあの時は知る由もなかった、アレ。
分厚い扉に書かれた音楽室、という文字。
中からは微かにギターやドラムの派手な音とお客さんの熱気が伝わってくる。
僕は扉を開けて中に入った。
いつもの真面目な雰囲気の音楽室とは違くて、ライトやスピーカーも設置されていたりして。
異世界に足を踏み入れたかのようだった。
同い年かな、すごく歌の上手いボーカルの声を聞きながら、僕はフロアの真ん中付近まで歩いて行った。
赤や青、紫、黄色のライトが奏者やお客さんを照らす。
音がバンバン鳴り響いているから話したりはもちろんできない。
そんな中、僕は見つけた。
「Aさん」
声は埋もれて伝わらないはずなのに、何故かAさんは隣に並んだ僕に気が付き、そして目が合った。
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作者名:稲穂 佳子 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年3月15日 15時