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バンドの皆さんはMCをしている。そのため、曲を演奏している時よりかは自分たちの声も聞き取りやすくなった。
「…おはよ」
取り敢えず挨拶。まさかAさんを見つけられるとは。
Aさんは制服を着ていなくて、あぁ本当に今はこの学校の生徒じゃないんだ、と実感する。
「何でいるの?」
僕が質問をしてもAさんは黙ったままだった。手を組み、少し俯きがちである。
「僕が恋しくなったんでしょ」
場を和ませるため、少し冗談めかして言った言葉。いつもならすぐさま否定されるのに、今日はそれがなかった。
Aさんはいろいろな思いを含んだ微笑を見せた。
「自分から去ろうとしたのにね。昨日だって本当は瑛一からも記憶を奪ってしまえばよかったのに、何故かできなかった。勝手よね、私」
「多分。Aさんがサキュバスとかもう僕には関係ないよ。また今から一緒に過ごそう」
「まさか自分がこんなに弱くなったとは思ってなかった。すごく怖いの。今はいいけど、いつか瑛一は私を置いて老いていくでしょ。その時がすごい怖いの。だからそれならいっそ最初から1人でいればいいんじゃないかって」
思わずAさんの手を取った。
「それはその時考えればいいじゃん。もしかしたら不老不死の薬が生まれるかもしれない、あるいは僕が超人になって死ななくなるかも。だから今は今だけを考えようよ」
ただAさんを元気づけたくて僕がそう言ったら、Aさんは噴き出した。
「何ソレ」
「いいんだよ、なんでも」
丁度、ラスト一曲でーす、とMCが終わった所だった。
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作者名:稲穂 佳子 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年3月15日 15時