契り【狗巻棘】

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｢棘｣

夏の蒸し暑さで支配された教室内に目を黒色の布で覆った教師の生徒を呼ぶ声が轟いた。

ジメジメとした室内にはっきりと通ったその声を室内に居た生徒3人ともがそれぞれに拾い上げる。
棘、と呼ばれた口元をネックウォーマーのようなもので隠した少年もまた顔を上げた。


｢こんぶ｣


教室の扉を半分ほど開き、廊下から少年に向かってこっちこっちと手招きする高身長の大人に向かって棘と呼ばれた生徒は返事を返す。

降ろしていた腰をあげて廊下の方へと歩き出す。後方で他の2人の生徒の疑問の色を含んだ声と蝉の鳴く声とが重なり合って重奏をみせる。

友人達のちゃかすような言葉に対して、高菜と一喝した彼は元担任の所へと急いだ。



｢聞いたよ。常峰のお家騒動に首を突っ込んだんだってね｣

さすが、僕の生徒。
ケラケラと笑いながら親指と人差し指で丸を作った教師は反対の手でその穴に人差し指を差し込みながら意味ありげに呟く。

言葉を向けられた少年はさらさらとした色素の薄い髪の毛を揺らしながら怪訝に教師らしからぬ言動をする、男を見上げる。ツナツナ、と表情を歪ませながら教師のそれらに視線を這わせる。

何が言いたいんだ？
と、視線だけで訴えながら蒸し暑さでごった返した廊下の中央に立ち尽くす、刹那


｢…彼女。急いで産婦人科に行ったらしいね｣

｢避妊はきちんとしないと。ね？棘｣


｢……っツナ 明太子 高菜！！｣


棘の心を驚きと羞恥で乱す言葉が投げかけられた。ネックウォーマーを抑えながら狼狽える生徒を面白そうに見下ろす教師。布で目を隠しているにも関わらず生徒の姿形を捉えているその手腕にただならぬ雰囲気を見せる。


｢すじこ 高菜 ツナマヨ｣

｢え？自分と彼女の事だから僕に関係ない？｣


自分のことをからかっているのかはたまたいつもの調子で楽しんでいるのか。
羞恥心で赤く染る頬をふるふると首を振りながら吹き飛ばし、教師に反論を述べるがその直後、



｢関係あるよ？｣

｢僕さ。ひたすら親の言いなりになって我慢し続けてきた彼女、｣


イカれてると思うんだよね。

蝉の合唱を背景とした殺伐とした廊下に教師の淡々とした声が響き、生徒の怒りを含んだ言霊が飛び交う。


ただならぬ雰囲気に教室内で聞き耳を立てていた友人達も廊下へと飛び出してくる。


なんだ？どうしたんだ？

様々な感情と思惑が飛び交いぶつかり合う音が轟いた直後、無機質なチャイムの音がその場を支配した。

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