9話「家政婦とタバコ」 ページ10
悲鳴を出す余裕もないまま、路地を通り人目につかない所まで連れてこられた。
明かりは極端に少なく、必要最低限の光のみに照らされ、私を連れる人物の姿が僅かに映し出された。
突然の出来事に若干の恐怖を感じた私の顔は、その人の冷たく大きな手に包まれる。
『なっ…何?』
深紅色の双眸が、まるで品物定めをするかのような目付きで私を見つめた。鋭い視線に、思わず目を逸らしたくなる。が、ここで目をそらしてはいけないと、脳が警告を流す。
「てめえ、前にどこかであっただろ」
『…え?』
またあの声が、今度は至近距離から聞こえてきたが、彼の言った質問(?)の意味が分からず、聞き直すような返事しか出来ない。
相手の顔はあまりよく見えなかったが、こんな声をした人物は知り合いの中には居ないはず。音や声質には敏感な方だし、昔から人の声を記憶することが得意だったから間違いない。
『いいえ…お会いしたことは、ありません』
思わず震える声でそう言うと、相手は納得のいかないような表情を浮かべつつも、「そうかよ」と言って私から離れた。
「職業は?」
『は?』
「てめえの職業を聞いてんだよ」
やっと解放される…とバッグを抱えて逃げようとすると、今度は職業を聞かれた。思わず「は?」と言ってしまったが、上手いこと流してもらえた。
え、何?これは俗に言う職質と言うやつだろうか。いやいや、こんな怪しいところに連れ込んでおいて職質されるなんて誰が想像出来る?出来ませんよね?
相手は黙ったままの私を他所にタバコに火をつける。タバコは苦手なので吸わないで欲しい…なんて今言ったら間違いなくボコボコにされるだろうな。
ここは正直に言っておこう。あとで調べ上げられて嘘とバレたらそれこそ大問題に発展しかねないし、先生にも迷惑をかけてしまうかもしれない。まぁ、こんなヤクザみたいな人に絡まれるような真似をした覚えは一切無いけどね!
「職業は、家政婦をしています」
私はつとめて低姿勢かつ遠慮がちに答えた。
すると彼は先程よりも更に不機嫌な顔で「…そうかよ」とだけ返し、ふぅーっと煙を吐く。
周囲に漂う匂いに鼻を抑えそうになる。が、スっと入ってきたタバコの匂いに、嗅ぎ覚えのあるような感覚がした。決して自分が喫煙者でも、知り合いや家族に喫煙者がいる訳では無い。
けれどもこの匂いに、懐かしさを覚える自分がいた。
それが何故なのかは、分からなかった。
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よもぎ(プロフ) - コメントありがとうございます!まだまだ話数が少ないですが、ぼちぼち更新していきますので、これからもよろしくお願いします! (2018年10月2日 23時) (レス) id: 7dc175d1d8 (このIDを非表示/違反報告)
すらいみーる@元もちづき(プロフ) - 読ませて頂きました!とてもおもしろくてお気に入り&一気に全部読んでしまいました!!他のキャラとの絡みもあるということで更新楽しみに待ってます!!w (2018年9月23日 23時) (レス) id: 3b52443fef (このIDを非表示/違反報告)
よもぎ(プロフ) - ありがとうございます!先生推しです!オチはこれから他のキャラ達と出会い、親睦を深めていく…という流れで話を進める予定なので現時点ではまだ確定できていません。少しでも読者様に楽しんでいただけてとても嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2018年8月26日 13時) (レス) id: 7dc175d1d8 (このIDを非表示/違反報告)
俗 - 読ませて頂きました。続きが気になりますし、主人公さんの性格がとても好きでした。オチは決まってないと言うことですが、よもぎさんは寂雷さんが好きなのですか?更新頑張って下さい。楽しみにしてます。 (2018年8月26日 2時) (レス) id: 5b4c0c9e60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よもぎ | 作成日時:2018年8月22日 1時