検索窓
今日:6 hit、昨日:3 hit、合計:26,060 hit

4話 「家政婦とリーマン」 ページ5

さっきまで俯いていた顔がホームに差し込む太陽に照らされ、男性は眩しそうに目を細める。


目元には隈が残っていて、まだお昼なのに疲れきった表情をしていた。


顔色も悪く、見ていて心配になる。


「すみません、俺いつもこうなんで…」

『いえ…それより、具合が悪いように見えますが』

「ああ、ただの寝不足なのでお気になさらず」

『そ、そうですか…?』


気にするなと言われたが、血の気の引いた顔を見てしまってはどうも放っておけない。


エナジードリンクのひとつでも常備していれば……なんて思っていると、ピチャッ…と頭に雫が落ちてきた。


ふと見上げると、先程まで見えた太陽は隠れ、厚い雲が空を覆っていた。


ぽつり、ぽつりと、雫が落ちる。


『雨…』


予報では夕方頃から雨が降ると聞いたが、少し外れたらしい。


幸い、池袋駅には一郎が迎えに来てくれるから、雨に濡れる心配はない。


しかし隣の男性にとっては全くの不運だった。


「嘘だろ…傘もってきてないのに……」


「傘」という言葉に気づいた私は、鞄の中から折り畳み傘を取り出し、男性に差し出した。


持ってきておいて良かった…


『良かったら使ってください』

「え?でも、あなたが…」

『友人が迎えに来てくれるので大丈夫です。これからお仕事に向かうんですから、濡れたら大変ですし』

「…すみ………ありがとう、ございます」

『いいえ』


遠慮がちに受け取った男性は、少しだけホッとしたように表情を緩めていた。


ちょうどその時、ホームにアナウンスが響く。


〈まもなく普通列車池袋行きが発車致します〉


到着した電車を見ると、すでに乗客が乗り始めていた。


『私はこれで』

「ま、待って!」


軽く会釈して立ち去ろうとする私の腕を、男性が掴んだ。


驚いて振り返ると、ポケットから小さな紙を取り出し、私の手のひらに握らせた。


「都合が合う時、連絡してください。傘、返しに行くので…」

『え、あの』

「それじゃあ!」


男性はそう言うと、人混みに紛れどこかへ行ってしまった。


『返さなくてもいいって、言おうとしたんだけどな…』


握ったままの紙を開くと、シンプルな字体で【観音坂 独歩】と書かれている。


男性の名刺のようだ。携帯番号と企業名にも目を通す。


『へぇ…医療関係の人だったんだ』


先生もお医者様だから、何かご縁があったりして…


なんてね、ただの偶然だろうけど。

5話 「家政婦と長男」→←3話「家政婦とリーマン」



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (68 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
223人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

よもぎ(プロフ) - コメントありがとうございます!まだまだ話数が少ないですが、ぼちぼち更新していきますので、これからもよろしくお願いします! (2018年10月2日 23時) (レス) id: 7dc175d1d8 (このIDを非表示/違反報告)
すらいみーる@元もちづき(プロフ) - 読ませて頂きました!とてもおもしろくてお気に入り&一気に全部読んでしまいました!!他のキャラとの絡みもあるということで更新楽しみに待ってます!!w (2018年9月23日 23時) (レス) id: 3b52443fef (このIDを非表示/違反報告)
よもぎ(プロフ) - ありがとうございます!先生推しです!オチはこれから他のキャラ達と出会い、親睦を深めていく…という流れで話を進める予定なので現時点ではまだ確定できていません。少しでも読者様に楽しんでいただけてとても嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2018年8月26日 13時) (レス) id: 7dc175d1d8 (このIDを非表示/違反報告)
- 読ませて頂きました。続きが気になりますし、主人公さんの性格がとても好きでした。オチは決まってないと言うことですが、よもぎさんは寂雷さんが好きなのですか?更新頑張って下さい。楽しみにしてます。 (2018年8月26日 2時) (レス) id: 5b4c0c9e60 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:よもぎ | 作成日時:2018年8月22日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。