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怖くないわけがない ページ26

「……怖かっただろ」

「……え?」


呟くように俺が言うと、Aはその目をほんの少しだけ丸くさせて驚いたような表情を浮かべた。そして、きっと俺があまりに強ばらせた顔をしていたから、更にその驚きは大きくなったようだった。こんな顔をしていては、彼女を不安にさせてしまうかもしれない。こんなことを言ったって、彼女が救われることなどない。それでも、俺が言葉を続けようとするのは、単純に謝りたかった、ということもある。でもそれ以上に大きくある理由は、Aが自身の胸のうちを、少しとはいえ俺に伝えてくれたからだ。以前ならこんなときでも、『大丈夫』『何でもない』と言って、無理をしてでも綺麗に笑って見せていただろう。彼女は周りの人に心配をかけたり迷惑をかけたりすることに敏感で、それを避けているように思える。

けれど今は、きっと胸のうちを痛めながら、それを俺に伝えてくれた。自身が思っていることを、俺に教えてくれた。そのことがこんな状況でも嬉しくて、重たい痛みが俺の中にずっしりとあるものの、その中心に暖かいものがふわりと現れたような気がした。

だから俺も、俺自身の感情を、表に出さなければならないと思った。そして、『ごめん』と言いたいのは彼女だけではないのだということを知ってほしかった。違う痛みかもしれない。同じにしてはいけないのかもしれない。でも、少なからず俺も、痛みがあるのだということを伝えたかった。共有したかった。それでAが安堵することはないだろうけれど。


「発作起こして、苦しいわ冷たくなるわで、怖かっただろ。……なのに俺は気付かねェで、お前を一人で苦しませた」


想像も出来ない。突然、なんの前触れもなく心臓が上手く働かなくなって、言うことをきかなくなって、呼吸が苦しくなって、手足から体温も色も抜け落ちていって。俺には想像も出来ないことだけれど、それは彼女にとって、恐怖をもたらすものだろう。意識が薄れ行くなかで、嫌でも死を思うだろう。そんなことが、怖くないわけがない。

その恐怖の中に、Aを一人で居させたことが、許せなかった。俺がいち早く気付いていても、その恐怖が薄れることはなかったかもしれないが、きっと、声をかけたり、背中を擦ったり、寄り添うことは出来たはずだった。


前に彼女が発作を起こしたときに、俺は無力にも何も出来なくて、ただひたすらに背中を擦り続けたとき。彼女は言った。『とても心強かった』と。


そんな小さなことですら出来なかった自分が、情けなかった。

怖かった→←彼女の願いそのもの



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ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2019年6月1日 22時

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