【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

彼女の願いそのもの ページ25

5歳なんて遊び盛りの頃から病を患い病院や自宅のベットの上で大人しく、走り回ったり友達とはしゃぐことも出来ずに、Aは大人になった。それでも。そう。Aの父親が言っていたように、口には出さずとも当然我慢して我慢して、両親や周囲の人間に心配をかけないようにと笑って、色々なことを諦めて、彼女は生きてきたのだ。外の世界への憧れを抱き続けながらも、それを外側には発信せず、彼女は狭い部屋の中で窓の外の景色に思いを馳せていたのだ。それを内側だけに懸命に留めようとして、自分の中で完結させられるようにして作られたのが、きっと、あの紙飛行機なのだろう。あれは、彼女の願いそのものだった。

そんな彼女がやっと、退院して容態も安定してきて、外出も許されて。『海に行きたい』というAの願いを、漸く発信することができたのだ。俺に、そう告げることができたのだ。そこには俺には分からない様々な思いがあっただろう。期待だとか不安だとかこれまでの不満だとか諦めだとか、そういうものがあの言葉の裏には隠されていただろう。その当時の俺はそんなことに、気付きもしなかったし、考えもしなかったけれど。

それなのに、彼女は今、病室に居る。また願うだけの、四角い枠から覗くだけの場所に、Aは居る。それが、彼女にどんな思いをさせるか。どんな感情を思い出させるか。そのすべてを理解することは到底不可能だけれど、その一欠片だけなら、分かるような気がする。


折角箱の中から飛び出せたのに、自分の思いもよらない、理不尽なことのせいで、いつの間にか、自分の意思とは関係なく強制的に、同じ場所に引き戻される。それはどれだけ、悲しく、悔しいものだろう。


『ちゃんと最後まで普通に、ばいばいまでしたかったのに』


その言葉が、その感情のすべてのように思えた。


だからその彼女の感情に。堪らず溢れたそれに、俺が慰めの言葉をかけるのは違うような気がして、言葉を飲み込んだ。その代わりに、俺は俺自身の感情を、ポツリポツリと言葉にしてみようと思う。


「……俺も、ごめんな」

「え？」


Aは顔を横に向け俺を見据えて、何故俺が謝るのか分からないというようにキョトンとした。


「お前が発作起こしてるの、お前が声を上げるまで気付けなかった。……もっと早く、気付くべきだった」

「銀さんのせいじゃないですよ。発作は突然起こるもので、予期できたりしないし…」

「そうじゃなくて」


予期出来たとか出来ないとか、そんな話じゃないんだ。

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