怖かった ページ27
「……銀さん」
と、Aが少しの間を置いてから、俺の名前を細やかな声で口にした。心電図の音が響く病室に生まれたその声は、酸素マスク越しでもなんだか神秘的で、透き通っていて、俺は無意識に俯かせていた顔を自然に上げていた。彼女は力なく枕に頭を預けながら、俺を真っ直ぐに見つめていた。その眼差しは俺のことを心から案じてくれているように慈悲深くて、何でお前が俺にそんな目を向けるんだよ、と俺は苦しくなった。今は自分のことだけを考えてろよと内心で思ってから、そうさせているのは自分自身であったことを思い出して、何とも言えなくなった。思わず顔をしかめるようにしてしまう。
そんな俺に彼女は、「確かに」と言葉を発した。
「怖かったです、とても」
自分がこのまま消えてなくなるんじゃないかって、発作を起こす度に考えます、と。誰からも見送られずに、空気に溶けていくみたいに、姿形が何の痕跡もなくなくなるんじゃないかって、と。
そう言いながらも、彼女は決して俺を責めるような口調にはならなかった。酷く穏やかに。優しい茜色の光を水面に静かに揺らす海みたいに。その声を聞いていると、どうしてだか、安心を覚えてしまう。勝手なことだと思いながらも。俺は本来、責められていいはずの立場なのに。
「病院に居るときも、看護師さんを呼んで、薬を持ってきて貰えれば何とかなるって分かってても、どうしてもその考えが浮かんできちゃって」
ダメですね、弱くて、と。彼女は苦笑する。そんなことはないと俺は思う。薬があったとしても、それを飲めば何とか乗り越えられるのだとしても、苦しみが自分を蝕み続けているのだから。そんな状況下で、恐怖を抱かない方がおかしい。怖くなって当然だろうと、そう思う。そんな状況の中でも強くいることなんて、誰も求めたりしない。
その言葉を否定しようと口を開きかけて、けれど「でも」と、彼女の声がそれを喉の奥に押しやった。
「怖かったけど…やっぱり、私は救われました」
くぐもった声には、何処か湿り気があるように感じられた。
「発作が起きて、気が遠退いていくとき……このまま消えちゃうんじゃないかなって怖くなってたとき……銀さんの声が聞こえていたんです」
私の名前を、ずっと、呼んでくれていましたよね、と。Aは俺を見据えた。じっと、問い掛けながらも確信しているような目だった。俺はそれに口を閉ざしたまま頷いた。それを見て、彼女はその笑みをまた少し深くした。嬉しそうに、目を細めた。
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ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年6月1日 22時