【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

喜ばせたい ページ11

『…これ、お前が落としたのか』

『はい…！すみません！当たっちゃって！』


──出会いは本当に偶然で。

新八にガミガミ言われるがまま俺は病院に健康診断に行って、その結果医者から一週間の甘味禁止令を言い渡されて絶望にくれ、最悪な気分で冷たい風が慈悲も容赦もなく頬を刺す中で帰路につこうとしていた時に頭に紙飛行機がぶつかってきたのが、Aとの出会いだった。窓からこちらに手を振っていた彼女の遠目から見えた姿と、少し焦っているような声色を、今でも覚えている。俺は頭に当たった紙飛行機を彼女に届けるべく再び病院内に戻り彼女の病室へと向かったのだ。

病室に入って間近に見た彼女は、酷く脆い、少しでも乱暴に触れてしまったらすぐに澄んだ音を立てて壊れてしまうのではないかと思わせる雰囲気を漂わせていて、俺は暫くの間彼女とどういう風に接したらいいのか分からなくて苦戦したものだ。言葉ひとつで目の前の彼女は簡単に傷付いてしまうのではないかと。ひび割れてしまうのではないかと、比喩ではなく本気でそう思っていた。俺の知り合いには居ない雰囲気の持ち主だったので戸惑ったというのもあった。

彼女が作った紙飛行機を切っ掛けに、俺は彼女と出会い、春樹Aという人間を知っていった。彼女と過ごす時間で、彼女を知りたいと強く切実に思った。彼女のことをすべてではなくとも理解して、彼女の力になりたいと思った。

そして、何の見返りも求めず純粋に、彼女を喜ばせたいと、いつしかそう思うようになっていった。


そういう風に、それが当たり前のことだという風に俺の中の何かが変わっていったことを俺は自覚しつつも、それを変えていった感情の名前が、どうしても分からなかった。それはあるのだと実感していても、それを捕まえることができなかった。不可思議で、けれど嫌な感じではないこの感情は何なのだろう。

俺は今日まで。ついさっきまで、分からずにいた。

けれど今はそれが何だったのか。その感情の名前が何なのか、分かる。さっき漸く、それを掴むことが出来たのだ。その輪郭を、見つけることが出来たのだ。


いつからこの感情は俺の中にあったのだろう。もうわりと長い付き合いなので覚えていないけれど、そんなものは、タイミングなんてものは重要ではなくて。

彼女を喜ばせたいと思うのは。
彼女を笑わせたいと思うのは。
彼女が俺の見つめてくれると、落ち着くのは。


俺が、Aのことを



「──ぎ、んさん」


その時。Aが俺の名前を呼び、そして、弱い力で俺の着物を掴み、言った。


「とめて…くださ、い」

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