【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

向かい合わなければ ページ47

『だからこそ怖くなった』。その言葉は一体、何処に繋がるのだろうか。何を示しているのだろうか。考えてみようとしてみても、何をどう考えればそれが分かるのかすらも俺には分からない。けれどきっと、それは俺が知らないことに、俺が知ることのできなかったAに。Aが必死に隠していた彼女自身に繋がるのではないかということは、なんとなく分かった。Aのあの時折見せていた、影のある表情。その真意が、少なからず見えてくるのではないか、と。それは俺も聞きたいと思う。ほんの少しでもいい。彼女のことを理解できるのなら、俺はその真意を知りたいと思う。

けれど、そんなことを、俺がこの場で聞いてしまってもいいのだろうか。そんな不安がふ、と俺の中に現れる。聞きたい。でも、俺なんかが聞いてどうする、聞いたって何が出来る訳でもないだろうと、そんな声が俺の内側から聞こえてくる。Aのことを想う気持ちと、Aへの罪悪感。それらがせめぎあって、混じり合わずに複雑な模様を描いているようだった。


そんな俺の迷いを察したのか、たまたまなのか、Aの母親は言う。「本当は、まだ迷っているんです」と。


「この話をしてしまっていいものなのか……娘には、私が今日坂田さんのところにお伺いすることも話していないんです。でも、塞ぎ込んでいる娘を見ていると、このままじゃいけないんじゃないかって」


その目は、本当に強い光を宿していた。彼女も、迷っているのだ。これからしようとしていることが、正しいことなのか、間違っていることなのか、分からずに、けれどだからといって立ち止まっている訳にもいかなくて、こうして俺の向かい合っているのだろう。


「…坂田さんには、話しておかなくちゃいけないんじゃないかって、思えて仕方ないんです」


なら、俺も向かい合わなければならない。この強い目から、逃げる訳にはいかない。

彼女が話すことをやめるのならそれでもいい。深く追求したりはしない。けれど、もし話してくれるのなら、それがどんな内容だったとしても、俺は静かに耳を傾けていよう。そう思う。

やがて、Aの母親が何か覚悟を決めるかのように、ひとつ深呼吸をした。それは伝える事柄を纏める時間でもあり、勇気を振り絞る時間でもあるのだろう。そして、彼女は語り始める。


「これは、二年前のことです」


それは、ひたすらに静かで、ひたすらに悲しい、彼女の孤独と決意の話だった。

続編です！！→←大きな存在

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す