【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

伝えたい言葉を ページ29

「……もうひとつだけ、言いたいことがあるんだ」


と、俺は口にした。本当は、ここで言うべきなのか。そもそもこんなことを彼女に伝えてしまっていいのか、悩んだ。今でもまだ悩んでいるところではある。彼女に対しての罪悪感が完全に消えたわけではないし、後ろめたさはある。彼女自身もきっと色々な無理をしているだろう。一人で考えて、整理しなければならないことだってあるだろう。彼女は『何ですか？』という風に首を傾げて見せては俺の言葉を受け止める準備をしてくれているようだけれど、曖昧に笑って『いや、やっぱ何でもねェや』と誤魔化してしまうことも出来る。そうすべきなのかもしれない。それでも、俺はこの先に続く言葉を手繰り寄せるように探している。

兎に角、細かいことは後にして。頭の片隅に置いといて。拙くても、上手く纏まらなくても、伝えなくちゃいけないと強く思う。ついさっき自覚したばかりの感情で、ついさっき見つけた、彼女への言葉なのに、それはまるで随分と前から伝えることを決めていたかのような、決意のようなものがあって。

いや、きっと俺は、ずっとそれを持っていたんだ。持っていたけれど気付けなくて、中々その輪郭を見つけ出すことが出来なくて、手こずっていたのだ。漸くそれが見えて、伝えるべきことが明確になっているからか、なんとなく安堵している部分もあった。


たった一言でも。短くても。伝える。伝えなければならない。


冷たくなっていく彼女を見て、息も絶え絶えになっている彼女を目の当たりにして。伝えておかないといけないような気がしたのだ。伝えたい言葉を、包み隠さず飾らずにそのままに。


じっと彼女を見つめる。Aも俺をじっと見つめていて、俺は息を吸い込む。そうして俺はこの短い時間で呼吸を止めていたことを自覚した。

口を開く。


「……俺、俺さ」


「お前のことが、」とそこまで言った、その時。彼女の目の色というか、雰囲気が変わったような気がした。ほんの一瞬だけ見開かれたような感じがして、睫毛が微かに震えているように見えた。

その異変に勘づきつつ、言い始めた勢いが収まらなくて、俺は続けた。


続けようとした。


「好──」

「銀さん」


けれど、その言葉をAは遮った。


「ごめんなさい、その続きは、あまり、聞きたくない、です」


その声は固くて、何かに怯えるように身体を縮めているみたいだった。

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