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思い出すだけで、胸があたたかくなる記憶だ。
『……いいえ。あの時の優しさはきっと嘘ではありませんね。貴方が優しい人だって、私ちゃんと知ってるんですよ。だって、恋をしているから』
目を細めて、そっと笑ってみせた。鳶色の瞳に映る私はまだほんの少しだけ、頬が染まったままだった。
今度は太宰さんの息をのむ音だけが耳に入る。
「…分からないな。私はただ異能を無効化する力を持っていただけに過ぎないのに、それで好きになるなんて」
『いいえ。私が好きになった貴方が、たまたまその異能を持っていただけなのです。…私は貴方自身が好きなんですよ』
そっと、彼の頭を優しく抱き締めた。
壊れ物を扱うように、ゆっくりと。
掌から伝わる体温が。
微かに聴こえる呼吸の音が。
何故かひどく私を、ゆるやかに安心させていくのだ。
「……A…」
『大きくて、でも綺麗で。私の頭を優しく撫でてくれる、この手が好きです。』
『私を可愛……いえ、沢山褒めてくれる、貴方の声が好きです。貴方の声を聞くだけで、心がきゅっとするんです。』
『貴方の目は本当に綺麗ですね。私を優しく見詰めてくれる、貴方の目が好きです。』
『…でもやっぱり、私に優しくしてくれるところが、一番好きです』
彼の目が見開かれていく。
彼はそっと私を離して、静かに私の瞳を見詰めた。
が、それも直ぐ、瞬き一つで何時もの飄々とした太宰さんになった。
───あれ、今結構恥ずかしいことを云ったな。急に冷静になって、身体が熱くなっていく。
「……照れるな。急に如何したのさ」
『い、いえ。私が貴方の好きなところを、貴方に伝えてみたかったんです。…だって貴方が、私に好かれている自覚があんまり無いから…!
…でも、知らなかったなぁ』
「うん?」
『……私、こんなに太宰さんのこと好きだったんだなって…』
云った途端、急に唇を塞がれた。
『っ、だざ、』
最初は優しく、触れ合うだけの接吻だった。然し直ぐに深くなる。
何度も角度を変えて、繰り返し口付ける。
思考、感情。まるで自分の全てを唇から貪り、喰らい尽くしてしまいそうな感覚に、思わず頭がくらりとする。
『…ん…っ…はふ、ぁ…』
行き場のない手が彼のシャツを固く握り、皺を作る。
彼の唇から零れる吐息は、火傷しそうなくらいに熱く、熱く。
涙でぼやける彼は何時もの余裕は無さそうで。ほんの少しだけ、頬が染まっていた。
「……何でそういうこと云っちゃうかなぁ…」
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時