もっと溺れちゃえばいいのに(桃)

30．馬鹿だなぁ… ページ31

さとみside.

ほんとに。

君は最後まで抵抗しなかったね。

分かってたはずなのにさ…、本当にバカだよ、お前は。

心臓病患者で余命数日の力なんて男だとしてもたかが知れてるのに。全く抵抗なんてしなかった。


だから、果物ナイフで思いっきり。腹を刺してやった。

だって、苦しいのは嫌なんだろ？

腹を刺せば、息が苦しくなる前に逝けるもんな。

好きだったのに、嫌。

好きだったからこそ…か。

自分だけの存在で居させたかった。

大丈夫、俺もすぐ逝くからな。多分、死んだ後は会うことはないのだろうけど。

水に映る俺の顔は、欲と安堵で歪んでいた。

この無駄に整った顔も、こんなに歪んでしまえば醜いものだなw

沈んでいく彼女を見ると、水面越しでも分かるような清々しいほどの笑顔で、

『あいしてる、』

と口を動かした。

彼女に刺したナイフを、自分の腹に突き立てる。

あんなにも酷いことを彼女にしておいて、自分で死ぬのが怖い。

ここまで非道なことをしておいて、異常ながらもやっぱり人間なんだと言うことを思う。

溢れ落ちそうになる涙と、溢れる罪悪感をなんとか止めようと自分への皮肉のように広く、青く澄んだ天を仰ぐ。

そして、下ろしていたナイフを再度腹に突き立て、思い切りよ力を籠めて刺す。

さ「っぐ…」

溺れないように揺らしていた足を止める。

これで、これで自分への憎悪が消えるようには思えなかった。




走馬灯のようなものが流れてくる。

あぁ、

こんな果物のナイフで、ただの真っ白なワンピースも。


君を飾れるんだなぁ…




なんて、下らないようなことを最期に。

俺は意識を手放した。

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