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一度は引き下がった母親だが、今度は瓦礫の山や高専関係者を指差して怒鳴った。
「それを言うアンタたちこそどう見てもまともな人間じゃないでしょ!?何よこれ!!」
これには悟も答えず、彼の反応を見て母親はニヤリと笑った。
「……ふーん?もしかして、本当に人様にはバレちゃいけない人たちなの?なんなら私が言いふらしてあげちゃおうかしら」
「痛い目見ることになりますよ」
夏油さんが冷めた表情で言う。
「へえ?さっきあのガキ叩いたら犯罪とかどうのこうの言ってたくせに、自分たちは良いわけ?子供の前で母親に手を出すっていうの?」
「"これ"は例外だからイイんだよ」
『…さ、悟』
本当にやるのか。と悟を見ても彼は視線を合わせてくれない。
今更ではあるが頭が冷えて、やっぱりそういうことをして欲しくないと思ってしまう。
夏油さんとは目が合ったが、彼は首を小さく振って再び母親に視線を送るだけだった。
「あぁそう…別に良いわよ。やってあげる」
彼女はバッグからケータイを取り出す。
「そりゃ残念」
呆れたように言った悟の顔は笑っていない。
どう考えても彼女の思惑が成功する未来は見えない。ただ、既に話し合いで済まないこの雰囲気は、一番マシなルートが恐らく『ケータイを壊す』とかそういうあまり穏便じゃない方法で済ますしか方法がないようにも思える。
しかも、このキレてる悟が穏便な方法を取ってくれるかはまた別な話である。
どの選択にしろ彼女の怒りは沈められそうにないわけで、口止め料払ったくらいで黙ってくれそうにはない。
何か言いたくても既に手遅れで、この場は一触即発の緊張感に包まれていた。
母親が、取り出したケータイを耳に移動させる。
悟が足に力を入れて少しだけ踏み込みの姿勢になる。
その時。
「待った」
落ち着きと威厳のある声がその空気を切り裂いた。
全員の視線が私の後方へ向く。
聞き慣れた声に『まさか』と思い、同じように振り返る。
羽織を肩にかけて、悠々と歩み寄る初老の男性。
「篠崎一槻様だ」
誰かが呟いた。
篠崎一槻。私の祖父である。
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怠慢のにぼし(プロフ) - 緑の白猫さん» ご感想ありがとうございます!そう言っていただけて、構成に頭を悩ませた時間も無駄ではなかったのだと嬉しく思います。 (2021年2月23日 22時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ストーリーの構成も上手いし、時間軸の移動の仕方も上手いしで…。堪らなく大好きな一作です! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
怠慢のにぼし(プロフ) - 琥珀さん» こちらこそ初めまして(*´ч ` *)こちらは五条悟オチになります。嬉しいお言葉ありがとうございます!本当に励みになります (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 怠慢のにぼしさん初めまして、この小説は五条悟オチですか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怠慢のにぼし | 作成日時:2021年1月19日 20時