最愛のリグレット。【Kazunari.N】2 (ページ1)

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｢…｣

保健室の前で突っ立ったまま

多分10分は経過してる。

『日向さん、これ吉村さんの荷物、保健室に持っていってあげて』って

クラスの子に言われて。

いつもの私ならきっと、言われる前にそうしてた。

雨芽ちゃんを運ぶ二宮センセイの後ろにひっついて

センセイに｢お前は来んな｣とか言われながらも

絶対真っ先に雨芽ちゃんの元に向かってたよ。

なのに

私は今ここから

動けないでいる。

『雨芽は…俺が運びます』

あの時のセンパイの顔が頭から離れなくて…

だってあんなに必死な表情、初めて見た。

中学の頃からずっとセンパイを見てきて

あんなに焦ってるセンパイを初めて見たの。

きっとそんなつもりはなかったと思うけど

二宮センセイを見る目が

『触るな』って言ってた。

雨芽ちゃんに触れる手が少し

震えてた。

それだけで、分かってしまったの。

センパイにとって雨芽ちゃんは

特別な存在なんだって。

すごくすごく、大事な存在なんだって。

だから私は

この先に入るのが怖いんだ。

その答えを聞いて自分がどう思うのか

知りたくないから。

.

ｶﾞﾗｯ

｢あ、｣

｢あら…もしかしてあなた、吉村さんのお友達？｣

｢…はい｣

｢彼女今は落ち着いて眠ってるけど、良かったら様子見てきてあげて｣

｢はい、ありがとうございます｣

｢私は吉村さんのお家に電話してくるわね｣って

私と入れ替わりで保健室から出ていった先生。

もう立ち止まってる意味も無くなってしまった私は

ゆっくりとそこに足を踏み入れた。

1番奥のベッドだけカーテンが閉じてて

薄ら見えた人影に

胸がぎゅっと狭くなる。

そこに居ることなんてはじめから分かってたはずなのに

シルエットだけでこんな気持ちになってしまう自分にも

どうしようもなく腹が立った。

.

｢…センパイ｣

智｢…！｣

智｢…日向さん｣

チラッと開けたカーテンの隙間から覗くと

センパイの肩が大きく揺れて

こっちを振り返った。

｢…雨芽ちゃんの荷物持ってきました｣

智｢あ…、ごめんね、ありがとう｣

｢雨芽ちゃん、大丈夫でしたか？｣

智｢うん…軽い熱中症だって…今は眠ってる｣

｢…そっか、良かった｣

センパイの隣から雨芽ちゃんの顔を覗くと

綺麗で、綺麗すぎて

雨芽ちゃんがこのまま消えてしまうんじゃないかって

少し怖くなったんだ。

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