Walhalla～英雄たちの集う場所～ ……そこで働くホストたちの日常…… (ページ38)

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長い沈黙が流れる。
櫻井が何を考えているかは不明だが、智の方はさっさと諦めて帰って欲しかった。

こういう沈黙は好きではない。
息が出来なくなりそうだ。
……堪らず立ち上がろうとした時

「ならば尚のこと外に出てみませんか？
そして色んな事を知りましょう。
私は仕事が捗る、あなたは今まで知り得なかった事を知る……いい話だと思いますが……」

……全然話が通じない。
簡単な話なのに……

「……ぃ…いい加減にしろっ！
行かないって行ってんだろ！
おっきな会社なんていらない！
人に哀れまれるのも、同情されるのも、下げずまれるのも嫌なんだ……
そんな風に見られた事ないあんたにわかんないかもしんないけど……
好きで独りで生きてたんじゃない。
そんな俺にここが家になったんだ。
ここが俺の全てなんだ……」

自分で言ってて哀しくなった。
何１つ人としてのものを持たなかった。
それが当たり前で本能のまま生きていた。

だがオーナーに拾われてナイトやウェイターを始め全てのスタッフに色んな事を教わった。

誰一人嫌な顔せず、優しく時に厳しく温かかく教えてくれた。
ここから出て行くなんて考えた事もなかった。

「誰もが家を出て仕事をします。
あなただってそうしたっていいんです。
ナイトの皆さんだって独立したり誰かの元に就職したりするでしょ」

それでも引き下がらない。
どう言えば通じる？

確かに櫻井の言ってる事は正論だ。

怖がってばかりじゃ駄目なんだろう。
だけどもう少し温かなこの場所にいたいと思って何が悪い？

「俺、まだここにいたい。
でもこんな話ばっか来るならナイトやらない。 ……ガーディアンに行く。
それで駄目なら何処かに消える……」

立ち上がりそのまま応接室を出て行く。

「まだ話は終わってません！」

櫻井は慌てて止めようとするが聞く耳持たず、扉は閉まった。

呆然と扉を見つめる櫻井の後ろからクックッと抑えた笑い声が聞こえた。
振り向くとオーナーが笑いを堪えようと必死になっていた。

「いや、申し訳ない。
久々にあの子の怒鳴り声を聞いたもので……」

どうにか笑いを抑えたオーナーは櫻井に向き合い

「あの子は野良猫でした。
言葉も通じないから大怪我をしているのに何度も逃げようとした。
慣れるまで何ヵ月もかかりましたよ。
それから言葉を教え、スプーンの使い方から教えました」

懐かし気に目を細め話し出した。
それを櫻井は姿勢を正し黙って聞く事にした。