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皆が口を揃えて智より自分の方がマシだと言っていた最悪らしい過去。
こんな普通の会話の流れで軽く聞いていいのだろうか？
「あぁ、そうだ。
俺が潤を拾ったとこらへんで俺もオーナーに拾われたんだ。
だからかな、ほっとけなかった」
……笑顔で言う事ではない筈。
「潤の事は知ってたし身元わかりやすかったけど、俺のは全然わかんなかったって。
俺も自分がわかってなかったから仕方ないよな」
全然わからないってどういう事？
何故にこにこしてるの？
「聞いていいの？」
尋ねる潤の方が声を振るわせる。
「何を？」
「あなたの過去……」
「皆から聞かなかった？」
「智に聞けって……」
「面倒臭いなぁ……言ってもいいのに。
何もないって」
意味がわからない。
何もない？
「名前も戸籍も父親も……
母親はうっすらあるかな？
あんまり覚えてないけど」
！！！！
なんだそれ？
「途中までは母親が育ててくれたんだろうけど、ある日突然帰って来なくなった。
捨てられたのか、なんかの事故があったのかもわかんない」
戸籍にも入っていない子どもが１人取り残された？
「元々冷蔵庫だの棚だのから何か食べてたから外で探して食べるのに抵抗はなかった。
結構、日本ってさ、お弁当とか捨てられてるからあんまり困らなかったんだよね。
最近はうるさくなったから表だって捨ててないけど」
けろりと言われた言葉に何度目かのショックを受ける。
「母親との会話は殆どなかったのかな。
言葉がわかんなかった。
だから見つかって怒られてもわかんなくて追い掛け回されたのは怖かったよ。
それからは人目につかないようにしたけど」
保護される前に逃げてしまっていたんだろう。
「何歳だったの？」
「わかんない。
オーナーに拾われてドクターに調べてもらって、多分８才か９才くらいだろうって」
「どれくらい１人でいたの？」
「わかんない。
暑い日も寒い日も１人だった」
わかんない……
戸籍すら入っていない子どもに誰も何も教えなかった。
都会に忘れ去られた子ども。
よく生きていられたものだ。
家にいる間にもほっとかれていたからだろう。
言葉もわからず本能だけで生き延びた。
それでも……
「夜中、追っかけられて逃げてる時に車にぶつかったんだ。
痛いけど逃げなきゃって思いの方が強くて必死に路地裏に隠れたんだけど、そこで力尽きた。
気がついたら病院のベッドの上だったよ」
衝撃的過ぎる過去……
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作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
