喫茶店と少女 ページ10
なんだか今日はやけに疲れた。
もしかしなくとも太宰治のせいだろう。
ああ、こんな情けない顔のまま中原先輩の所まで帰る訳にはいかない。
喫茶店にでも寄ってから帰ろう。
「――『障子に目あり』」
そう言うと同時に、頭の中に膨大な量の景色が入り込んでくる。
なんという異能の無駄遣い。
「お、意外と近いな」
数秒して、最寄りの喫茶店の位置を確認した。
この距離だったら迷わなさそうだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「いらっしゃいませ」
うん、中々にいい雰囲気の店じゃないか。
「ご注文は?」
「珈琲ひとつ」
「かしこまりました」
次の休日に中原先輩をお誘いしてみようか。
そして二人で何でもない話をしながら……なんてな。
その時だ。
席のすぐ側を通り過ぎた少女がハンカチを落とした。
パサリと控えめな音がしたが、少女は気付いていない。
「ハンカチ、落としましたよ」
まあ拾ってやらない理由も無い。
私は少女にハンカチを差し出した。
「あっ、ありがとうございます」
少女は少し恥ずかしそうに頬を赤らめて礼を言った。
……何故だろうか。
彼女とは初対面ではないような気がする。
根拠は全く無いが、不思議とそう思った。
「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」
運ばれてきた珈琲は、今まで飲んだどの珈琲よりも美味しかった。
そして飲み終わる頃には、ハンカチを落とした少女の事など綺麗さっぱり忘れていた。
会計を済ませ、外に出る。
店の前にある看板を見て、そうだ店名を覚えておかなかればと思い出す。
この店の名前は……
「喫茶『うずまき』、か」
中原先輩にもお伝えするとしよう。
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作者名:サーモニウム | 作成日時:2018年6月14日 23時