バレンタイン６ ページ22
リボンに手を掛けて引っ張るとするりと簡単に解けた。中身は四角いチョコレート
「なにこれ？」
「生チョコ！作り方教えてもらったから作ってみた。バレンタイン兼味見だから感想よろしく〜」
味見かよと思いつつひとつ摘んで口の中に放り込む。柔らかい食感とビターチョコレートの苦さが広がった。
「甘さは控えめにしてみた」
「……美味い」
「よかったぁ……あ、他の人にはあげてないから秘密ね」
「俺だけ？」
「あ…味見してもらうにしてもさ、みんな美味しいしか言わないし？アンタならはっきり言ってくれるかなぁって」
早口にまくし立てる。
Aはお菓子作りが本当に上手い。昔からよく作ってくれるのがいつも楽しみだった。結構…いや、かなりこいつの作る菓子が好きだ。
他の奴は貰ってないのか…
特別な感じがして柄にもなく喜んでしまう自分がいた。
「ありがとな。毎年義理チョコばっかり作るのも大変そうだねィ…つくづく女じゃなくてよかった」
「……私は楽しいからいいけどねー」
「女といえば……お前、俺の名前呼ばねェな」
「どんな思い出し方だよ。そうだっけ？沖田隊長って呼ぶでしょ」
「そうじゃなくて。昔は総悟って呼んでただろィ？」
「別によくない？」
「まぁねィ……ただ呼ばれなさすぎてお前が幼馴染みの名前を忘れるほど老化が進んだのかと心配になっただけでさァ」
「は？酷くない！？忘れるわけないじゃん！」
「はいはい」
「ムカつく………いつも総悟って言ってるし…」
「え？」
「なんでもない」
ボソボソと呟かれた後半は全然聞き取れなかったが、聞き返しても教えてくれそうにはなかった。
そろそろお暇するわ〜とAは伸びをする。
「じゃねーおやすみー」
「おやすみ、腹出して寝るなよ」
「そんなことするかよ。アンタこそ風邪ひくなよ、バカ総悟」
俺の額にデコピンを一発
されたにも関わらず怒ることを忘れるほど、久々に聞いたあいつの口から紡がれる"総悟"という音は俺の心を響かせた。
こんなにも、俺の名前はいいものだったか？
ドキドキを激しくなる心臓を押さえつけた。
今日の夜は、暫く寝れそうにない。
Aは静かに部屋の外へ出ていった。
「毎年あんたに本命渡してるっつーの…気づけよバカ」
そう呟かれていたことを俺は知らない。
──次の日他の奴らにチョコを自慢して怒られたのはまた別のお話。
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作者名：冬織 | 作成日時：2018年1月27日 18時
