さようなら、恋心 ページ34
増渕くんに、伝えないと。
増渕くんは犯人じゃないんだよ、だからもう逃げなくても、苦しまなくてもいいって。
『ごめん、市橋くん。私行かなきゃ、』
そう伝えて椅子から立った瞬間、右手を何かに引っ張られた。
「…行くな」
眉を寄せて私を見つめる市橋くんの左手が震えている。
右手から伝わるその振動に胸がぎゅっと苦しくなった。
こうやって私は、いつも彼を苦しめている。
『、…うん』
これでいいんだ。もう、何かを失いたくはない。
…私の気持ちに気付かないフリをすればいいだけ。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
夜になって家に帰っても、明かりがついている様子はない。
…さすがに、もういない、よね。
これできっと増渕くんは当たり前の日常を取り戻すんだろう。
私たちの関係も、また友達に戻る。
…一体どんな顔で会えばいいんだろう。
平気な顔して会えるほど、私も強くない。
誰もいない静寂が響く家に入ると、リビングの机に器に盛られた焼きそばのようなものと、手紙だけがポツンと置かれていた。
何故か少し震えた手でお世辞にも綺麗だとは言えない字で書かれた手紙を手に取った。
《 Aちゃんへ。お礼も言わずに勝手にいなくなって、ごめん。でも、もう全部終わらせようと思う。今までお世話になりました。それと、本当にごめんなさい。信じてくれてありがとう。美味い自信なんてないけどせめてものお礼です。 トビオ 》
焼きそばも見てわかるくらい所々焦げた痕跡が見える。
『ずるいよ、増渕くんは』
好きだった。増渕くんのことが、ずっと。
だから私を、私の存在を求めてくれた時素直に喜んでしまった自分がいた。
でももう、これで何もかも終わり。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿私たちは、ただの友達だ。
それ以上でも、以下でもない。
ただのクラスメイトなんだから。
…だから全部、全部忘れてしまえばいいのに。
冷たくなってしまった焼きそばをひと口、口へと運んだ。
『…増渕くん、塩っぱいよ』
それが味付けのせいなのか、溢れる涙のせいなのかは分からない。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿さようなら、私の恋心。
そしてもう二度と、現れないでください。
こんな最低な自分も、もういっそ消えてしまえばいいのに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 807人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狛犬のリサ(プロフ) - あーあ、やっぱり夢主はトビオじゃなくて市橋かぁ…けっ…作者は最高でドラマも最高だったし…トビオ落ちだったらもっともーっと最高だったのになぁ (2019年1月22日 2時) (
レス) id: 3d96b1b6a9 (このIDを非表示/違反報告)
みい - いつも楽しみにしてます！トビオおち分岐ありがとうございます！トビオと結ばれて欲しいと思ってたので嬉しいです (2017年9月27日 16時) (レス) id: 788e2e4591 (このIDを非表示/違反報告)
はる坊(プロフ) - この前はトビオオチが見たい！とコメントさせていただきましたが、正直私もどっちも見たいです。どちらも書いてくださるというお話すごく嬉しいです！！頑張ってください！！ (2017年9月2日 22時) (レス) id: 0e6de27daf (このIDを非表示/違反報告)
前田ちかね(プロフ) - 市橋くんオチがいいです！ (2017年9月2日 22時) (レス) id: f96c4eb485 (このIDを非表示/違反報告)
emu(プロフ) - 今日の回は昼顔っぽくて面白かったです！めっちゃ好きですこの感じの＞ω＜ (2017年9月2日 1時) (レス) id: 7e03b267ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：佐伯
| 作成日時：2017年8月8日 18時
