兄貴のお気に入りに恋をした【灰谷竜胆】 (ページ41)

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建物の壁に寄りかかるようにして座っている彼の前で立ち止まる。

お腹あたりを手でおさえて苦痛に顔を歪めている彼の顔をのぞきこむと殴られた跡なのだろう、所々色が変わって腫れている。

｢…あ？お前、なんで｣
その言葉さえも弱々しくて、こちらが泣きそうになった。

｢なん…で、こんな、｣
｢…俺から言わせりゃ、いつものことだ｣

｢お兄さんは？｣
｢帰ったんじゃね｣

彼のお腹にのせる手に自分の手を重ねる。
ピクッと指が反応を見せるその手を包み込むようにして握ると

｢無茶しないでよ…なんで、私なんか｣
｢…“なんか”言うな｣

今にも涙が零れそうな私の顔をじっと見つめる。
彼の空いた片手が私の手の上に乗るとそこから伝わる優しさ。

｢兄貴が悪ぃことしたな、｣

声に出すと今にも泣き崩れてしまいそうで、
顔を横に振ることしができない。

｢もう、俺らに関わるな。忘れろ｣

言いたいことはわかる。
それが優しさの末の答えだということも。でも今は、

｢傷、見せて下さい｣
｢ァ？｣
｢こんなになってる人を残してここを立ち去れません｣

いつも持ち歩いてる消毒液と少しの絆創膏、
｢染みるけど、我慢です｣ティッシュにそれを浸してポンポンと傷に充てていく。

乱れた髪をかき分けると一瞬目が合い、バツが悪そうにまた反らす。おでこや耳の辺りにも擦り傷が伺えた。

関わるな、と言っておきながら伏せ目がちにされるがままな彼はやはり優しい。

なかなか立てない様子を見ると、ただの打撲か骨折か、
｢ちょっと触ります｣
肩、背中、足、上から押すようにすると
｢折れてねぇよ、触ると痛ぇけど｣

最後にお腹あたりを押さえると
｢い‪゛ッ！！｣強い痛みに顔が引き攣る。

｢ちょっとごめんなさい｣バッっと服をめくると
痛々しい痣よりもっとくっきりとした模様が目に入る。

それもかなり広範囲の。

思わぬものを見てたじろぐ自分に
｢俺はお前が思ってるような奴じゃねぇ、これが俺らが生きる世界だ。関わらねぇ方が身の為だって分かるだろ｣

｢…人を、…殺したと、さっき聞きました｣
｢…ああ、｣
｢本当なんですね｣

｢…｣
｢何か理由が？｣
｢殺らなきゃ殺られてた｣
｢正当防衛？｣
｢いや、喧嘩を買っただけだ｣

｢…後悔は、｣
｢何が言いたい、どこを探しても擁護できるところはねぇよ｣
｢…｣
｢これが俺だ、わかったか｣