4・照れて照れさせ沈黙中 ページ20
今までの、李里と恋仲になるまでの真一郎ならば、『時計を贈る』と言われたらきっと燃え上がるような喜びもなく「ありがとうな」だけで済ませていただろう。真一郎はエマに、『恋人に贈るプレゼントにどういう意味が内包されているか』という事をある程度聞いていた。一応甘えるように仕向けているとは言えど、育ってきた環境ゆえに、甘え下手で、思いを言葉にするのが少し苦手な恋人が言外に発しているシグナルを受け取りたくて、真一郎は色々調べているのだ。その中でも時計は『貴方と共に時を刻んで行きたい』という意味があったはずだった。恋人が何を思っているか分かるようになって良かったと思っていたその知識が今まさに真一郎の頸を柔く絞めてきていた。
「…仕返し」
華奢な指が手に絡んで、情を掻き立てるように蠢く。そしてそのまま持ち上げたかと思いきや二人の間だけで聴こえるような大きさでリップ音を立てて手首に血色の良い唇が触れた。むに、と押し当てられたやわこさは、まるでこの先で贈る腕時計をここにつけて、というマーキングのよう。
「ちょ、やめろ」
「嫌？」
「嫌じゃないけどここ公共の場だろ…！」
16歳とは思えないような、どこか「女」の色香を感じる表情で李里が真一郎を見つめてくる。
「抱きたくなった？」
真一郎は何も言わなかった。でも、反射のように上下した喉仏がその返事だった。
「真一郎さんかわいい」
「…歳上からかって楽しいか？」
ふてくされたような空気を纏っている真一郎の頬を、愛玩するように突っつきながら李里は愉しげに笑った。
「真一郎さんだからだよ。からかって、誘惑して、抱かせてって言わせたいの」
「オレも。抱いて欲しいってオマエに言わせたい」
ほぼノータイムでぶつけられた返しにじんわりと躰の奥底で情欲が燻る。小さく「そっか、」と呟いたきり照れてしまって店員が来るまで沈黙が満ちた。
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作者名：契 ゐと（元 いときち丸） | 作成日時：2023年11月6日 15時
