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顔を真っ赤にして獣のように吠える伊之助を落ち着かせるのは案外簡単だった。
解決策は単純。
Aが「これあげるから落ち着いて」と言いながら伊之助に唐揚げをあげただけ。
そうすることで彼はすっかり大人しくなる。まるで動物に餌付けをしているような気分にはなるが。
幸い、他の生徒は伊之助の咆哮を聞いてもびっくりした後に苦笑いする程度で流してくれた。
そんな優しい同級生たちに感謝するとともに、次は気を付けよう、とAは一人心の中で意気込んだ。
そして唐揚げを食べてすっかり落ち着いた伊之助を横目に、三人は話を再開させた。
*
それぞれの予定を確認しながら話を進める最中、炭治郎はぽつりと言葉をこぼした。
「それにしても博物館か……懐かしいな」
「懐かしいって何が?」
炭治郎の呟きに善逸は顔を上げて不思議そうに訊ねた。炭治郎は遠くを見ながら昔のことを懐かしむように答える。
「Aは小学校の頃、遠足で博物館に行ったときにみんなとはぐれて迷子になったことがあるんだ」
まさかあのAちゃんが。
善逸は意外そうに「へえー」と言いながら、いまいち想像できないその状況を頭の中で思い描く。
当のA本人は炭治郎のその話を頼りに、机の角に視線を向けながら自分の記憶を辿っていた。
「それで先生たちの他にも、同級生全員が総出になってAのことを探したんだ」
炭治郎は少しだけ笑いながら言う。
Aはしばらく真剣に考え込んでいたかと思えば、炭治郎の言葉にハッと何かを思い出したかのようにその顔を上げる。炭治郎に向けられているその目は見開かれていた。
「たっ……!!」
言葉を忘れた声が思わず口からこぼれ出る。
大方、『小学二年生の頃に遠足で迷子になったこと』を思い出したのだろう。
Aは慌てた様子で炭治郎を指さし、忘れさるべき自分の恥を暴露してしまった彼に対して声を張り上げた。
「なっ、なんで今それを言っちゃうの!」
まさか今になって過去の出来事を掘り起こされるとは。しかも一番忘れていて欲しかった炭治郎が覚えているなんて。
心の準備もせずに自分のかつての黒歴史を聞いてしまったため、Aの顔は恥ずかしさでだんだん熱を帯びてきた。
「私だって忘れてたのに……!」
その白い頬が桜色に染まっていく。
まさかこんな風に彼女の照れた表情を見ることができるなんて。
炭治郎は赤くなったAの顔を眺めながらひっそりとその心を和ませた。
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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時