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――だって幸せを壊すような鬼はもういない。そうだろう?


善逸はそう言って優しく笑った。その笑顔は炭治郎の優しい笑みによく似ていた。
優しさは感染するなんて、人間は上手いことを言うものだ。


「善逸……」


思わずその名前を呟く。

彼の言葉を聞いた炭治郎の心はとても軽やかだった。

Aとは一緒に幸せになれない。今まではそんなことばかり考えていたから。

けれど今回の善逸の言葉を聞いて、例え兄妹としてでも彼女の隣にいることを許された。そんな気がしたのだ。

炭治郎は穏やかな表情で言う。


「――……ありがとう」


彼のその口角は嬉しそうに上がり、細められたその深紅色の瞳は少しだけ潤んでいた。

善逸は少しだけ照れくさそうに笑いながら右手の拳を炭治郎に差し出した。


「……ほんとなんかあったら相談しろよな」
「俺達……親友なんだから」


炭治郎は少しだけ驚いたように目を瞬かせたが、すぐに善逸と同じように笑いながら右手の拳を差し出した。


「ああ」


拳と拳が重なった。







二人が揃って教室に戻れば、そこにはAと伊之助がそれぞれ炭治郎と善逸の席に座っていた。

Aは教室に入ってきた二人の存在に気付くと不満ありげに口をとがらせて言葉を放つ。


「ちょっと二人とも遅いよ! もうお腹ぺこぺこなんだけど!」


そう怒っているAの顔があまりにも愛らしくて炭治郎は思わずその表情を緩ませた。


「二人とも待ってたのか? 先に食べてても良かったんだぞ」


「ハッ! おめえら知らねえのか? 飯はみんなで食べるのが一番美味いんだぜ!」



……。



伊之助はドヤァ、と今にもそんな効果音がつきそうなほど自信満々に言った。
その言葉に炭治郎と善逸は目を丸めてお互いの視線を交わらせる。

そして、腹の底からだんだんと湧き上がってくる何か。




「ふ、ふははっ!」
「うぃっ、ウヒヒヒ!」




それは笑いだった。

二人は声を抑えることなく、大きく口を開けて。あるいは極限まで口角を上げて笑っていた。

伊之助は急に笑い出した二人を困惑した様子で見つめる。


「お、おい。A! こいつら頭が可笑しくなったぞ!」


伊之助はいつもの強気な雰囲気を忘れて、オロオロと困ったように狼狽えた。


Aはといえばそんな三人の様子を眺めながら特に何も言うことなく、くすくすと笑っていた。



彼らの笑うその空間はどこか温かく懐かしい感覚を思い起こさせた。

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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時

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