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炭治郎はAを見送った次に、その視線を伊之助に向けた。
長いまつげを伏せ教室内の騒音を気にすることなく熟睡している伊之助に、炭治郎は優しく声をかける。
「伊之助、そろそろ起きれるか?」
「……コイツ……無駄に顔が良いのムカつくな」
善逸は不機嫌そうに頬杖をつきながら、その整った寝顔を恨みがましそうな視線で見つめた。
炭治郎はそんな善逸の言葉に少しだけ笑いながら優しく伊之助の肩を叩いた。
「ほら伊之助、起きないと。授業始まるぞ」
そんな彼の優しいモーニングコールならぬアフタヌーンコールに、伊之助は唸るような声を出してゆっくりと顔を上げた。
「おはよう、伊之助。もう昼休み終わったぞ。授業の準備をしないと」
その言葉を聞いてゆっくりと彼の瞼が開いていく。
しかし次の瞬間、炭治郎と善逸は驚きにより吐き出すはずだった己の呼吸を飲み込んだ。
伊之助の瞼の奥に見えたのはきらきらと輝く深い翡翠色の瞳。それから、ぽろぽろとこぼれ落ちていくいくつかの透明な水滴。
「おっ、おい。伊之助……!」
普段は絶対に涙など見せるはずのない彼が、理由もわからず涙を流しているのを見て炭治郎と善逸はギョッとしたように目を見開いた。
「いっ……伊之助……どうしたんだ? どこか痛むのか?」
炭治郎は少し驚いた様子で、涙を流す伊之助に優しく声をかけた。
しかし起きたばかりでいまいち頭が覚醒していないのか、はたまたそんな炭治郎の心配の声が聞こえていないのか、伊之助は呆然とした表情で周りを見回した後にただ一言だけ言葉を発した。
「……Aはどこだ?」
「……Aちゃんなら、もう教室戻ったけど……」
「それより伊之助……、一体どうしたんだよ。急に……泣いたりして」
「……ゆめみた」
「ゆっ、夢?」
善逸は驚いた様子でパチパチと目を瞬かせて率直な疑問を自分の言葉に乗せる。
「お前が泣くとか……。どんな夢見たわけ……?」
その問いに、伊之助がゆっくりと口を開く。
「———————」
彼が話したその夢の内容に、二人は思わず言葉を失った。
――「Aが、化け物に殺される夢を見た」
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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時