Episode.65 ページ29
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「私が稲実担当、ですか？」
「そ！」と力強く頷くのは青道のマネージャー夏川唯さん。今日いる二人のマネージャーは夏川さんと一年生の吉川さんだけ何だそう。
「春乃はドジだから他校なんて任せられないし、Aちゃんは稲実出身だから大丈夫かなって」
「わ、分かりました」
いきなりチャンス到来。
けど試合もある成宮くんに余計なことして気を散らせたくない。
とにかく話す機会が欲しいのだから、それをとりあえず頼んでみよう。
「あの…ドリンクとタオル持ってきたんですけど…」
恐る恐る稲実ベンチに声をかける。
成宮くんはブルペンに入っていたのでいなかったそれで少し気が抜けた。
「ああ、青道の…すまんな。そこに置いといてくれるか？」
答えてくれたのは体格の大きな眉のちょっと太い人。
「分かりました」
そっと持っていたケースを下ろして顔を上げると、ちょうど白河くんと目が合った。逸らさずに、しっかり頷いた。
白河くんは何も言わなかったし、何も返さなかったけど何となく伝わってる気がした。
「雅さーん！」
私の待ち望んでいた人の声が聞こえたのは、そんな時だった。
「早くブルペン来てよー！投げたいんだけ、ど…」
大きな声を出しながら、ベンチを覗いた彼の動きが私を視界に入れた瞬間ピタリと止まる。
次の瞬間には、私の目の前から成宮くんは消えていた。
成宮くんとの距離は今、0センチ。私は、彼に抱きしめられている。
突然のことにびっくりして声も出なかった。
「Aちゃん…！やっと会えた！！」
私を抱き締めたまま、成宮くんは言った。その声音はとても優しくて、怒ってるかもなんて考えてた私が馬鹿に思えてくる。
「なる、みやくん…」
だけど感傷に浸れるのもここまで。
ここは稲実ベンチ。しかも相手はエースの成宮くん。
完全に注目を浴びていた。
「あの…とりあえず離してください…」
「ヤダね！離したらどっか行っちゃうよ」
「えっと…」
どうしよう。
「離してやれよ。お前は今から試合だし、鈴木もマネの仕事あるだろ。後でゆっくり話せばいい」
また、白河くんが助け舟を出してくれた。
「鳴、ブルペン行くんじゃなかったのか」
「白河に、雅さんまで…何さ。分かったよ」
しぶしぶ、といった感じで離れてくれた成宮くんは「Aちゃん、また後でね！」と言い残し、去っていった。
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作者名：陽奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ryosukehar1/
作成日時：2017年6月3日 20時
