The real fairy tale

痛恨 ページ21

Aside

あの遊園地デートから2週間がたった。あれから翔平さんは定期的に連絡をくれるようになった。定期的、といっても会話のキャッチボールは多いときで1日1〜2回ペースだったけど翔平さんはシーズン真っ最中で遠征もあって大忙しだし、それでも負担になっていないか心配なぐらいだ。かくいう私も教授たちの前で行う論文の中間発表が終わり、数十ページある論文が大量の赤ペンとともに返ってきた。つまり、私も私でパソコンとにらめっこなのである。翔平さんはシーズンが始まって余りたっていないのにもうホームランの数が2桁になったと、毎日チェックしている彼のニュースで見た。凄いな。本当に。

「野球の試合見に行きたいのにな…。」

『残念だな宮野、そんな時間ないぞ。目の前の現実を見ろ。ていうか宮野野球ファンだったか？』

「…山瀬先生。」

山瀬健次郎先生。彼は私が日本の大学の学部時代に所属していた研究室の先生だ。もうすぐ還暦を迎える先生だけど、彼は元々アメリカ育ちで思考回路が結構大胆な先生だった。彼が考え出す豪快な理論に触れたくて彼の研究室を選んだ。彼の転勤先がまさか私の進路と同じだった時は驚いたけど今でもたまにこうやって教室に呼んでもらって研究のアドバイスをもらっている。

『ほー。怪しいな。何、ロマンス絡み？』

「…ほっといてください。」

『はいはい。失礼しましたー。あ、そういえば。』

「はい？」

『今度1か月限定のオープンカレッジで授業を持つことになったから。』

「ええ！それって私も受けられるってことですか？！？！」

『ま、その真っ赤なエッセイどうにかできたらな。』

オープンカレッジとは申込をすれば大学内外誰でも聴講生として大学の授業を受けられるクラスの事だ。うちの大学では年に数回、社会貢献のために無料で授業が解放されている。また、山瀬先生の授業を受けられるなんて思ってもいなかった。

「内容は何なんですか？」

『Sports economic ripple effects (スポーツ経済波及効果)』

「お、面白そう...!私、絶対それ受けたいです！この赤ペン、全部直して見せますよ！！」

おーおー、やってみろやってみろ。と棒読みで資料をまとめ始めた山瀬先生をひとにらみしてから私はパソコンに向き直った。でも、パソコンの通知画面に浮かんだ文字に思わず絶句してしまう。

「嘘でしょ…」



















『[エンゼルス] 大谷翔平 登録抹消 左足脹脛に死球直撃 市内の病院へ搬送か』

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