第六十一話【見慣れた光景】 ページ41
時刻......二三時五十二分。
ようやく、紙を書き終え、万年筆を置いた。
書き終わった事に気が抜けたのか、私は椅子の背もたれに寄り掛かった。そして、文字が綴られた紙をただ眺めていた。
コンコンコンッ......
そこに扉のノックの音が聞こえた。私は紙を引き出しの中に閉まった。それから顔を上げ、扉の方を見た。
「どうぞ」
私は扉の前に立つ者に向かって声を掛けた。
「失礼するよ。あぁ、A戻ったんだね」
「やっとかよ」
部屋に入って来たのは、太宰と中原だった。私は席を立ち、二人に近づいた。
「えぇ、お騒がせて申し訳ありません。それで、今日の作戦は如何でした?」
「まぁ色々あって、急に向こうの君に作戦へ入って貰ったけど、何の滞りも無かった。加えて、此方の負傷者は零だ。全て作戦通りだったよ」
「それなら、安心しました」
色々という部分が気になるところだが、上手くいったというのなら、敢えて触れないでおこう。
「それで今日の報告書は......中也書いといて」
「ハア!? 何で俺なんだよ。お前の作戦だったんだろ!?」
中原はそうなると予想していなかった為に太宰へ反抗した。
「私は作戦を考えた。なら、残りの始末は君の仕事だろ? それとも『今週の負け惜しみ中也』を発行してもいいのかな?」
「手前ェ......それをやったらわかってんだろうな?」
中原は太宰に向かって、鋭く睨みをきかせた。太宰はその様子を諸共しないように、余裕な笑みを浮かべた。
「ふふーん。悪いけど、もう発行した後だ。今頃、組織中に回っている筈だよ」
その言葉を聞いた中原は一瞬動きを止めた。
「はぁ!?じゃあ......」
中原は私の方を向いた。私は複雑な笑みを浮かべた後、小さく頷いた。その様子を見た中原は勢いよく太宰の方を向いた。
「太宰ィィ......!」
中原は太宰に向かって右足を蹴り上げた。太宰はその攻撃が分かっていたかのように軽々と避けた。こうして、いつものイザコザが始まった。見慣れた光景だ。ただ、此処は私の執務室である為、調度品が壊れないか、内心冷や冷やしている。
そのような事を思っていると、中原が振り上げた手の先端がサイドテーブルの上に置いてあった花瓶に当たった。それにより、花瓶のグラグラと重心が揺れ、床に向かって傾いた。二人がその様子に気がついた時、花瓶は真っ直ぐに床に向かって落下し続けていた。二人の頭の中で花瓶が割れると予期した時......
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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時