第五十三話【弱さを隠す為の牙】 ページ33
三年前、まだ前首領がポートマフィアを統治していた頃......
私は組織の命で、ある組織の殲滅任務に当たった。しかし、敵の思惑により、私を除いた部隊が全滅した。私は微かに息が残っていた恩師ともいえる彼の体を抱えていた。
──── "「どうして庇ったりしたんですか」"
私は彼の手を掴んでいた。その手は何時も温かくて、優しい手だった。褒める事があると、その手で私の頭を撫でてくれる事もあった。私はこの手が好きだった。しかし、温かみがあったその手も徐々に血の気が引くように冷えていった。命の灯火が徐々に消えていくのを感じた。
彼は小さく息を吸うと、弱々しく言葉を吐き出した。
"「さぁ、何でだろうな......俺には無理だったが......お前ならこの世界で生き残れるかもな......」"
その瞬間、手の重みが増した。そして......二度と私の手を握り返してくる事は無かった。
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あの時の事を繰り返さない為にも、私は強くなろうと思った。それが唯一私に出来る彼等への償いだった。
秋田は敦と鏡花に向き直った。
「ただこの強さも自分の弱さを隠すだけの牙。強者から臆せず、弱者に威厳を示す為の......だから貴方方には必要がないものです」
私が敦と鏡花に目を向けていた時、この間にも可能性から未来を見る異能が発動していた。
それは、彼らがポートマフィアにいるというもの......その映像の中で、彼らが笑みを浮かべる瞬間は一度もなかった。
その反面、こちらの世界の彼等は幸せそうに見えている。消し去りたい過去があっても、彼等はそれに向き合いつつある。ならば、その機会という芽を私が摘み取ってはいけないだろう。彼等が自分自身の進みたい方向へ行けるように。
「それでは、此方の私にもよろしくお願いします。お世話になりました」
私は事務所を出た。後に小さく扉が閉まる音が耳に響いていた。
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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時