■仮面とサイレンの間に■4 (ページ15)

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･その5 ページ15

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氷のように冷たく、鋭い好奇の視線がアリスに刺さる。妖しい引力を持つ彼の片目に射抜かれた少女は、息をするのを忘れて見つめていた。

そんなアリスを気にかけることなく、ザミーゴは言葉を続ける。

ザミーゴ「気付いちまったよ。ギャングラーが化けの皮を使ってニンゲンに成ってるんじゃない。ニンゲンがギャングラーに混じってるんだってなァ。」

彼の言葉を理解するよりも先に、アリスの身体が震える。

アリスは、初めて〝恐怖〟という感情に気付いた。

心臓が締め付けられるような痛み、指先や足先が痺れるように血の気が引く感覚、身体の芯から冷えていくような動悸が同時に襲ってくる。
自分では抑えきれないほど足がすくみ、立っているのが精一杯だ。

ぐらりと視界が揺れたアリスは、電池が切れた人形のようにしゃがみこんだ。

アリスは、自分が何を恐れているのか考えた。
おそらくこの先に続く言葉が、彼の冷めた瞳が、ザミーゴという存在が。

ザミーゴ「だから俺は思ったのさ。アンタは、ボスがとっ捕まえてきたニンゲンなんじゃないかってね。」

音もなく鉄骨から飛び降り、目の前に立ち塞がるザミーゴ。距離を取ろうとしても、地面から足を浮かせることさえ今のアリスには出来ない。

〝ギャングラーじゃない〟〝捕まえてきたニンゲン〟
その言葉につられて呼び起こされる、朧げに浮かぶ数々の記憶が、映像が、アリスの意識を蝕んでいく。

いつからあの屋敷にいたのか、どうやってドグラニオ達と出会ったのか。そんなことは思い出せない。思い出そうとしてもなぜか靄(もや)がかかったように不鮮明なのだ。

だが、そうではない記憶が、次々と蘇る。

与えられた刀を振るい、無慈悲に人々を襲撃したこと。
与えられた訓練を、自身の肩が外れるまで無心でしたこと。
与えられた任務を、無感情のまま遂行したこと。

思い出せば出すほど、呼吸が浅く、速まっていく。

ふと気が付けば彼の冷えた指先が、乱れたアリスの前髪を掬う。

ザミーゴ「……ン、で？どーなの、実際。」

ここから逃げられたらいいのに、とアリスは思った。
しかし、それが出来ないのも、逃げても意味がないのも自分がよく知っている。

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自分は所詮、操り人形なのだから。

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