【金カム】愛に彷徨う[男主] (ページ10)

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-肆- ページ10

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「とは言ったものの...」

Aは人生最大、いや今世紀最大に頭を抱えていた。

「(いつかわからんって言ってたのに、その機会がすぐに来るとは誰も思わなんだ...)」

病室内が慌ただしくなっているのを尻目に、盛大な溜息をこぼす。
昨晩呼び出されたのにも関わらず、その翌日に尾形は姿を消してしまったのだ。

「(俺だってやらなきゃいけない事しこたま残ってるのに、あいつときたら...！合流した時ぶっ飛ばしてやるッ！)」

Aの小さな決意は、病室の騒がしさも相まって気づかれることはなかった。
ただ一人を除いては......

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～その日の深夜～

月明かりが雲の隙間から覗いている時、Aはこの先のことを考えて眠れずにいた。
尾形が口にしていた鶴見中尉について、A自身思うところがあったからである。

そもそも軍に入隊するきっかけを作ってくれたのは鶴見中尉のおかげではあるのだが、このところ鶴見は怪しい動きをしていたのだ。第七師団を乗っ取る気でいる。

Aは馬鹿々々しいと思いながらも従うことしかできなかったが、そのために軍に入ったわけではないのでそそくさと逃げるつもりでいたのだ。
しかし、尾形が脱走したことでより警戒が強まると思っていたのだが、不思議なことに警備が手薄なのだ。

「(あの中尉のことだ。きっと俺を泳がせて尾形のところへ案内してもらおうとでも考えているのだろう。)」

情報将校なだけあって頭脳明晰な中尉はAにとって厄介でしかなかったのだ。

「(さて、どうしたもんかねぇ...)」

この先の運命が自分の行動一つで決められると思うと、Aは一歩前に踏み出すことができなかった。それは自分だけならまだしも、尾形という相棒の存在がどうしても突き放せなかったのである。

「(仕方ない。一か八かにかけるしかないか...)」

眠気がこない瞼を閉じながら、Aは一晩中そのことについて考えるのであった。

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