-参- ページ9
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尾形の傷が癒え話ができるようになった頃、尾形から突然の呼び出しをくらった。病室に向かえばそこに尾形の姿はなく不思議に思っていると、枕の下にメモ書きが挟まっていることに気が付く。
それを開いてみると『消灯時間後 いつもの』と、簡単に書き記されていた。このメモを見てAはよほどのことがあるのだろうと察して、メモを胸元に隠しその場を後にした。
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闇がさらに深くなった時刻に、Aは指定されたいつもの所にやってきていた。Aと尾形の中で通じる「いつもの」とは射撃場を指している。消灯時間に宿舎を抜け出すのは規律違反であるが、二人ともバレなければいいと思っているようで、野暮なことを聞くことはなかった。
「お、ずいぶん早いご到着じゃねぇか。」
その声の主は長くなった前髪を撫でつけながらAの方に近づいてくる。
「そりゃ、病室で直接声掛けすればいいもののわざわざ置手紙なんか残すからだろ?」
それじゃなんかあると思うだろとあきれながらAは尾形に応える。
「はっ。流石右腕なだけあるな。察しがいいときた。」
「いいからさっさと本題に入れよー。さみぃーんだよー。」
Aは半ばイライラしながらも尾形の言葉を待つ。深夜の厳しい寒さに加え、日中の訓練の疲れが出てきているのだ。さすがに早く布団に入って休みたい。
「...俺は軍を抜ける。いつかはわからんがその機会が訪れればすぐ抜けるつもりだ。」
「......は?」
Aは寝ぼけてるのか寒いからなのかわからないが、尾形の放った言葉を理解できなかった。
「軍を抜ける?一体全体何が起きてそうなったんだよ。」
「簡単だ。俺は鶴見中尉の考えについていけなくなった。」
さも当たり前ですというふうに応える尾形を見て、Aは呆気に取られていた。
Aが怪訝な表情のまま黙っているのを見た尾形は小さなため息を吐いてから、仕方ないといった感じで、
「一応右腕であるお前に報告したまでだ。俺の言葉をどうとってもらっても構わない。」
と言って宿舎の方へと向かっていった。Aはそれを追いかけながら尾形に問う。
「それって俺にも付いてきてほしいから言ったのか?」
「お前がそう捉えたのならな」
Aは自信過剰にも程があるなと思いつつも、これが正解だろうと確信をしていたのだ。
なぜならその目は漆黒の世界を映しつつも、口角がわずかに上がっているのを見逃しはしなかったのだ。
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ロア……のスマホ版のようだ - いいですねー、、、 (10月9日 22時) (レス) @page14 id: 4dffd0e6b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ポポポ | 作成日時:2021年9月1日 11時