始まりは、本に埋もれた自室から。１ ページ2
「さてと、お次の本はっ…と」
出入口を除いた壁一面、天井程まである本棚。四方それぞれに背の高さが違う本がジャンル毎に整頓されて納められている
が、それだけの収納をもってしても収まりきらぬ本が床下やラックなどにも大事そうにまとめられている。
己の趣味全てを詰め込んだ、部屋の主からすればまさに天国であるこの空間で、「これぞ人生における至上の娯楽である」と言わんばかりに本を漁る少女。
…と、この部分だけを聞けば、一見して“読書好きの女の子”という、ステータスになりそうな外面なのだが
彼女の御目当ては文学書などではなく、この本の楽園である書庫の半分を占めるモノ…所謂“同人誌”と呼ばれる世間一般様にはオープンにできない代物だ。
彼女の名は神河紗希、解りやすく言えば、重度のキャラ萌えを患ったオタクであり、腐女子である。
綺麗にジャンル分けされた大きな本棚にある目印を探り、読み終えたであろう背幅が3�僂曚匹△詼椶鮓綫限膸�そうに元あった棚に戻すと、並べられた本を指でなぞって目当ての本を探り出す。
先述の通りいくらジャンル毎に整頓されているとはいえ、部屋を埋め尽くさんばかりの蔵書がひしめき合うこの書庫で、目当ての一冊を探すには少々骨が折れるだろう。
最も部屋の主である彼女はそのほとんどを正確に記憶しているわけだが、特定の一冊を探している訳ではないようで
軽くうなりながら背表紙を撫ぜて行く。
「…ん。こんなのあったかな？」
見覚えのない一冊の本が目に留まった。
何時のモノだろうと記憶を辿りながら、私はその本を優しく引き抜く。
今読みたいのは、プラトニックで淡々と思い悩んだり幸せだったりどこか淡白な世界観の作品。
手に取った見覚えのないこれは、この表紙から察するに“オールキャラほのぼの本”といった所か。
「覚えがなかろうが、ここに有るって事は買ったやつだろうけど。
…早くもボケが来てたりする？いや流石にこの年でボケるのはまずいよ。
まだ青春を謳歌してる筈のお年頃ですし？
…まさか、自分で買ったモノも覚えてないなんて」
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作者名：ルナ | 作成日時：2012年9月2日 18時
