和歌と恋する乙女たち【鬼滅の刃】弐

むなしくて、明けつる夜はのおこたりを【冨岡義勇】 ページ9

「えぇっ！？冨岡さん、もう二ヶ月も会いに来てないの！？」
「あの馬鹿は何をしてるんですか？」
「ふ、二人とも落ち着いて……」

甘味処の入り口で、三人の少女たちが膝を寄せ合って茶会を開いていた。客引きにもなっているその光景を、道行く人たちはほのぼのと眺めていた。

普段激務に奮闘しているのに、丁度良い具合に彼女たちの休みが重なったのは、おそらく、お館様の采配だろう。

あれよあれよと変わる話が最終的に行き着いたのは、恋の話だった。乙女の活力である。

三人の中で、拗ねたように桜色の唇を尖らせているのは、鬼殺隊として夜を奔走する隊士の一人、甲の櫻井A。
恋仲である冨岡との関係性が、恋仲になる前と大差ないことを、冨岡と同じ柱である階級の友達二人に相談したのだ。

「Aさんが寝ている間に訪ねている、というわけでもなく？」
「うん…なんだか、避けられているような気がするの」

たまに街で見かけたり、任務が被ったりするのだが、かなりよそよそしい態度を取られている。
あまりベタベタするような性格でもないのだが、ここまで避けられると何か問題があるのではないかと思ってしまうのは当然のことだろう。

「二人は何か聞いてる？長期の任務が入ってるとか、お館様に何か言われたとか」
「私は知らないな〜…しのぶちゃんは？」
「私も知りませんね……柱合会議にも出席していますし…問題があるとすれば、あの木偶の坊の方では？」
「しのぶ…仮にも人の恋人に木偶の坊って…」

苦笑いを浮かべて、先ほど甘露寺の食べっぷりに感動した店主がおまけとしてくれた三色団子を食べる。

「なんとしてでも、謝らせてやりましょう」
「冨岡さんに会ったら、また何か言っておくわね！」
「うん、二人とも、ありがとう。よく考えたら、冨岡ってあんまり恋人とかの関係で何するかとか知らなさそうだし、気にしないことにしようかな」
「ダメですよ！こういうことは、はっきり言わないと！」

私から言っておきますから、と胡蝶が意気込んでから、約半月。
未だ、冨岡からの音沙汰はない。

(やっぱり、私のことなんて忘れちゃったかなぁ)

Aは、そんな物思いに耽りながら、渋い茶を啜った。


***

むなしくて 明けつる夜はの おこたりを
今日やと待つに また音もなし

───────進子内親王


「虚しく待ちぼうけて明けてしまった夜……その怠りを詫びに今日は来るかと待っていますが、未だ音沙汰もありません」
風雅集より

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