嫌いになんてなれなくて

第６項目【トド松】 ページ7

「ほんっと馬鹿じゃないの！？」

自分で自分を傷つけるような事して、それで満足する。
でも偽りだからまた切って。

それの繰り返し。


リスカなんて、やるもんじゃない。


「………はぁ…」

まぁ、僕も悪いんだろうけどね。
無下に扱ったのは僕達だし、Aは何も悪くない。

だけど、人を疑ったり嫌ったりしない性格のAは自分が悪いと決めつける。

だから、「いなくなれば良い」って言われても否定しないで笑ってるだけ。
僕達六つ子はそれを利用する。

初めはただのストレス発散だった。

学校でうまくいかなくなった中学二年生。


その時の鬱憤をAに六人全員でぶつけにかかったんだ。

長男の責任。兄弟から無下に扱われる苛立ち。何一つできない自分へのイライラ。クズだと決めつけ、自分以上のクズを探す。笑うしかなくなった事への不満。人間関係のストレス。

それらを全部、一気にぶつけた。

Aはそれを全部受け取った。


笑って、「苦しいんだね」「頑張ったね」「我慢しなくて良いんだよ？」って。
そう言ったよね？でもね、反抗期の僕達にはそれはただのイラつくだけの材料。

悪かったと思ってるけど、今引き返しても兄弟から嫌われるだけ。
そんなの、嫌だ。
Aと同じ扱いを受けると思うと鳥肌が立つ。


そんなことをしてるのは僕等だけど…。

真っ正面から謝れれば良いのに…。できないことを頭でし続ける。
台本は完璧だ。でも、舞台がない。

実行する時がないんだ。


「………え？」

帰った瞬間、違和感を覚える。
薄暗い家の中。お風呂だけが灯りがついているけど、Aはお風呂に入っているわけじゃなさそう。

…じゃあ、何を？

最悪の場合が一つ思い浮かぶ。
僕は、その最悪の結果を予想してお風呂場に走った。

ガラッ


「！？誰！？」
「あ……」
「トド、松…」

驚いたように名前を呼んでくるその声にまで胸が高鳴って、僕を見据える目に吸い込まれそうになる。ポタッと落ちた血の雫が赤い波紋を広げていた。

止まることのない血。

全部、僕達が出したもの。
わかってる。わかってるけど、綺麗だ、なんて…。

「どうして…？」
「…A「なんで！？」っ…」

どうしてって、何でって、何を言ってるのかわからない。

「あんた達はッ…トト子のことだけ見てればいいのよ！！トト子にだけ構えばいいの！どうして帰って来るの！」
「どうして、って…」

一通り言ってしまうと、ハッとしたように謝り続ける。

Aは、再起不能だ。

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