嫌いになんてなれなくて

第５項目【十四松】 ページ6

叶うならもう一度、あの頃に戻りたい。


Aが嫌われている理由がわからない。なんで嫌われてるのかな？

優しいし、器量もあって、可愛い。それになんと言ってもAは昔から僕たちを慕っていたのに。


鬱陶しかった？でも、それなら僕達の方が大分と鬱陶しい事してるよ。

なんでAを虐めるの？誰よりも優しくて、誰よりも強かったAはもういない。
強かった心はいつの日からかボロボロになって、ズタズタに引き裂かれてる。

全部僕達のせいだ。

知ってるよ、僕。

兄さんもトド松も、Aのこと大好きなんだよね？でも素直になれないんだよね？


「…………十四松兄さん？どうかした？」
「……僕ちょっとやきうしてくるね！！先帰ってて！」
「え、ちょ、十四松兄さん！？」

トド松が僕を止めたけど、僕は一人で考えたい。
トト子ちゃんのライブを途中で抜け出してきたのは、Aのことが気がかりだったから。


兄さんたちが残した朝食を見た瞬間のAのあの顔。

絶望と虚無感が混じり合っていて、見たことないくらい悲しげな表情だった。


なんでだろう。僕はAのこと好きなのに。

トド松は、なんでトト子ちゃんのライブを抜け出してきたんだろう。
少しはAの事が気がかりになってると良いな。

一松兄さんも、心配してた。


早く帰ってAの話を聞いてやろう。


そう思って、素振りをやめてバットを肩に構える。
土手を出ると、もうすでに夕焼けが辺りを染めていた。



確か今日はみんな、チビ太のとこにおでんを食べに行くって言ってた！

だから家には今は誰もいないはず。
それに、Aは暗い部屋で一人でいるだろう。


「Aー！ココ！？」
「え。ちょ、十四松！？いつから…」

ただいまも言わずに階段を登って、Aのいる部屋の前に立つ。
すすり泣きが聞こえたから、Aは泣いていたんだろう。

いつもそうだ。

Aは僕達に涙を見せない。

年下だから？頼りないから？


できれば、僕達も頼って欲しい。

六人の中で二人だけだけど、Aを守って、話を聞いてくれる人はいる。


「どうかした？あれ、そういえば他の兄弟は…？」
「今はねーチビ太んトコ！！」
「そっか……」

少し安心した顔をしたのを僕は見逃さなかった。
そんなに僕達が嫌い？………違うか。


僕達が自分を嫌ってると思ってるんだ。


「…………A」
「どうしたの？」
「…入って良い？」

そう訊くと、やっぱり体を強張らせた。

戻れるなら、あの頃に。

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