嫌いになんてなれなくて

第３０項目 ページ31

一人部屋の中で読書をしていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
ここは珍しくも、和風な松野家の中で唯一のドアだから、隣の部屋をノックしたとかじゃない。

誰……？


私の知らないうちに十四松か一松か返ってきたのかしら……。


「はい……？」
「……A…姉さ……」
「えっ……と、トド松…？」


まさかの訪問者に驚いて声が上ずった。

まさか、私のことを汚いとか言っていたトド松が私の部屋へ来るだなんて……。


「どうかしたの？勉強ならトト子に教えてもらったほうがいいんじゃ…？私に教えられても嫌でしょう……？」
「あ…えっと、べ、勉強のことじゃ無いんだ」
「？じゃあ……」



なに、と言おうとした瞬間、トド松？と低い声。
カラ松だ。


「っ…な、なんでもない！」
「そうか……Aがいるのか？」
「ううん！」


にこやかに首を振ったトド松は、私の部屋へ入ってきた。

驚いて声が出ないんだけど…えっと、急にどうしたのかな。


「トド松？」
「あ、あの…えっとね、僕…僕は……A姉さんと、仲良く…したくて……」


モジモジと顔を合わせてくれないトド松から、聞き捨てならない言葉が聞こえる。
え、今、なんて……？


「一松兄さんと、十四松兄さんと約束したんだ…僕、A姉さんを守るって……」
「守る……？何から…？」
「…兄さんたち……」


え、っと……つまり、おそ松たちから？
でも悪いのは私で……。


「……悪いのは…私だから、迫害されるのも仕方がないのよ…？だから、守るだなんて大層な話…」
「悪いのは僕らだ…」


素直になれなくてごめん。
そう言ってトド松は私の手をそっと握る。


その手の暖かさが。声の優しさが。

全部、昔と一緒で。


ジワリと涙が出てくる。


「えっ、ちょ、A姉さん！？なんで泣くわけ！？」
「い、いや、ちょっと…ごめんなさい…ごめん…本当、ごめんなさい…」


ポロポロと涙が流れる。
なんで？止められない、どうして…？


泣く私を見ておどおどしていたトド松は、そっと私を抱きしめる。


私は子供みたいに泣き続けてトド松の胸に顔を擦り付ける。


「私、私……」


胸が張り裂けそう……。


嬉しさがこみ上げて涙になって。


「……トド松…私……みんなのこと、どんなことされても…ずっと大好きなのよ……私、ずっと…」



ずっと大好きだった。
どんなに嫌われてもいいと思うくらいには。

でもどこかで寂しかったのかもしれない。


今、すごく幸せで。

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