星を超えた想いを32【オリオンの刻印】 (ページ21)

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沈黙ページ21

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お風呂上がりの日課とも言えるジュースを買いに来たAは、自販機の前で灰崎と鉢合わせた。そして何故かそのままの成り行きで彼の夜更かしに付き合わされることとなっていた。

「灰崎くんどこ行くの？」

今まで壁に凭れかかってジュースを飲んでいた灰崎が体を離し、歩き始めた。その後をついていくように歩いてAが不思議そうに訊ねると、灰崎は首だけを後ろに捻り、口を開く。

「ずっと立ってもられねぇだろ」

「あ、なるほど。そういうこと」

「分かったらお前も来いよ」

どうやら立ちっぱなしが疲れていただけだったらしい。灰崎に座るように促されたAはぎこちなく返事をしつつ一人分の距離を開けて腰を下ろした。

「わ、気持ちいい」

思わずそんな声が漏れる。ふかふかの絨毯に体が沈むようなソファーは、どこか王侯貴族になったような気分を味あわせてくれる。

「(フロイくん、いつもこんなソファーに座ってるのかな)」

そう考えると、彼の生活がちょっぴり羨ましく思えた。Aの知るロシアの権力者と言えば迷わずフロイが頭に思い浮かぶ。印象こそ良くないものの彼しか知り合いがいないのだから無理もない。

「(それにしても会話がない……)」

灰崎に付き合わされてからというもの、二人の間で特に会話と言ったものがなかった。ただ買ったばかりのジュースを飲んでいるだけである。

イレブンバンドで時刻を確認するとあれから三十分は経っており、消灯時間はとうの昔に過ぎていた。視線を幾度となく送ってみるも灰崎はどこか遠くを見つめたまま目すらも合わせてくれない。

「ねぇ」

Aは思い切って声をかけた。するとカラになった空き缶を手の中で意味もなく転がしていた灰崎の手は止まり、同時に視線を彼女へと移す。

「私に話したいこと、あるのよね」

「どうしてそう思うんだよ」

「だって灰崎くんが理由もなしに私を呼び止めたりしないから。(それに、時々こっち見てたし)」

そういうと図星だったのか、灰崎は罰が悪そうな表情をした。Aの言う通り、彼女が灰崎を意識せず見ていない間、度々視線を横から感じていたのだ。何を言うのでもなくちらちらと見られていただけ。

「ゆっくり聞いてあげたいのも山々なんだけど、明日も朝練あるし今日中には寝たいな、って」

「……」

六時前には起床しなければ朝練には間に合わない。申し訳なさそうに眉根を落としたAがそう話すも、灰崎は視線を逸らしてまた沈黙を続けた。