日本産 ページ20
❀
「うわ、何これ」
「あ？どうしたんだよ」
「なんだかいつもと違う匂いがする」
一風変わったオレンジジュースの独特の匂いにAは微かに顔を顰めると行儀が悪いと分かっていながらもたまらず鼻を利かせて匂いを嗅ぐ。
「ロシアだぞ。日本と違って当たり前だろ」
「そうかもしれないけど…」
騙されたと思って試しに味見をしたAは嫌そうな顔をしながら仰向いた顔の上に両手で支えた缶ジュースに口をつけ、飲みはじめた。
「あ、美味しい」
「どっちだよ」
日本とは違う少しキツイ匂い。しかしその匂いからは想像ができないほどしっとりとそれでいて喉の奥に来るような甘酸っぱさがあった。
「なんだか匂いもいい感じに思えてきた」
「気のせいだろ」
「もしかすると日本より美味しいかも」
「お前言ってること真逆すぎんだろ」
日本とは違う新鮮な味に瞳の奥を
輝かせて手のひらを返したAに
すかさず灰崎のツッコミが入れられた。
普段はしっかりしていてどちらかというと頭脳派でチームの中でも頼りがいのあるA。しかしそんな彼女も、たまに抜けているところがあった。
「お前、それ……」
「あげないわよ」
「いや、いらねぇ」
ジュース缶の側面を見てみれば
ロシア産なのか日本産なのかすぐに
分かるはずなのに彼女はそれをしない。
「(まったく、監視役が聞いて呆れるぜ)」
現に灰崎はたまたま光の加減で見えた
日本という文字にため息をついていた。
「そういやお前、この後用事あるか？」
「え？特にはないけど」
突然灰崎からそんなことを聞かれたAは缶から唇を離して目を白黒とさせながら答える。
「ならこのまま付き合えよ」
「いいけど、どうしたの急に。灰崎くんがそんなこというなんて」
「ただの気まぐれだ」
そう言ってジュースを喉に流し込む灰崎を不思議そうに見ていたAは暫くすると視線を逸らし、自らも缶の受け口に唇をつける。
「(灰崎くんがそんなこというの、ちょっとっていうかかなり意外かも。本当はこんなこと思っちゃいけないんだろうけど………やっぱり、嬉しいな)」
そんなことを思い、口元をつり上げて微笑む彼女とは裏腹に、灰崎は自販機の横に建てられている誰もいない柱を一瞥すると、ぼんやりと何かを考え入っているような沈んだ顔を見せていた。
(はぁ…お風呂上がりのジュースは海外でも最高ね)
(やっぱりお前、親父臭いとこあるよな)
(なっ…！だから親父じゃないってば！)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年5月15日 0時
