優越感 ページ3
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盛り上がる観客席の中で異様な空気が流れていた。Aは何とかヒロトを説得して試合に出てもらおうとここまで来たのだが、いざ彼を前にすると何も言えずにいた。
するとヒロトは面倒くさそうに舌打ちをすると
「出ねぇよ、こんなふざけた試合。」
そう言いながらAの横を通り過ぎ、歩いていく。
「じゃあどうして、そんなふざけた試合を見に来たの?」
Aのその言葉に、背を向けたまま立ち止まったヒロトはなにも言わずにその場に佇んだ。
「本当は、ヒロトくんも試合に出たいんじゃないの?本当は、皆とサッカーがしたいんじゃないの?」
彼女の一つ一つの言葉が、声がヒロトの心に突き刺さる。思い出したくもない過去でさえ引きずり出されるその感覚に ヒロトは拳を強く握りしめて口を開いた。
「俺のことなんて何一つ知らねぇくせに、勝手なこと言ってんじゃねぇよ!!」
ヒロトの怒号は、会場の歓声に揉み消されるもAには確かに彼の声は届いた。
「確かに私は あなたのことなんて何一つ知らないかもしれない。」
まだ会って日が浅い二人の間には絆もなければ何の感情もない。ただの赤の他人だ。
「それでも、目をそらさないで 基山くんをちゃんと見てあげて!」
そう言い放ちながらフィールドを指さしたAの方向をヒロトは自ずと目で追ってしまう。
その頃 渾身のシュートを放ったタツヤは フィールドに手をつき、悔しそうな表情をしながらも力を振り絞るように立ち上がっていた。
「ヒロトくんは知らないかもしれないけどね、基山くんはあなたのことをずっと気にかけてたのよ。」
タツヤと会う度に自分のことばかりを話していたことなど彼(ヒロト)は知らないだろう。メールや電話でもヒロトについて相談を受けていたAにはタツヤの気持ちが伝わっていたのだ。
「嘘つけ!あいつは親父を.....俺の父さんを奪って優越感に浸っていただけだ!」
怒りのこもった声でAを指さし、否定したヒロトの表情は悲壮感に満ちていた。きっと彼には今も昔も 人が自分を蔑んだ目で見ているように感じているのだろう。
「そんなことない!!」
人を信用出来ないヒロトに、Aが声を張り上げてそう言えば 驚いたような表情で自分を見つめてくる。
「はじめて会った時、基山くんは 誰よりも先に"ヒロトは本当はいいやつなんだ"って言っていたのよ?」
その言葉に目を見開き「あいつが...」と緑川に支えられながらフィールドを出るタツヤを見つめるヒロト。
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作者名:小雪 | 作成日時:2018年8月10日 20時