【オリオン】天狼の伴星【フロイ】

７＝ちょっと昔の話し ページ7

初めてAがぼくの家に来た日をよく覚えている。


僕が12で、Aが11の時だった。




『え、フィアンセ…？』




新条伝てに聞かされた事だった。




僕に無関心な母さんが、意味も無く僕に許嫁を決めるわけがない。


瞬時にそう悟ってしまった。




『日本の由緒正しい陰陽道の家柄の方です。星詠みに秀でた才があると顧客ファンも多いとか…』


『充と同じ日本人…か、』




嗚呼、これから来る子は“母さんの為だけに”呼ばれるんだ。



その事に対して当時の僕は可哀想とも何の感情も抱かず、興味も湧かず

ただ、流れるままAと顔合わせする時が来た。









『───天兎(てんと)Aです。初めまして、フロイ様』




日本の着物を身に纏い、黒い髪に黒い瞳、


背筋はぴんと伸びていて、所作は丁寧。




幼いながら、その佇まいに見惚れた。




ただ…




『初めまして。よろしくね、A』


『…はい、フロイ様』




子供に似つかわしくない、貼り付けたような笑顔はこの時からもうあった。




『フロイでいいよ、フィアンセなんだし』


『……では、フロイ。よろしくお願いします』




『(この子も、皆と同じで気を使って仲良くなれないのかなぁ…。)』




Aは常に微笑んでいた。



多分これが素かな？って言う時は真顔だった。


そして、目が合えばニッコリ笑ってくれる。

けれど、作り笑いだ。




『────…』




本当の、笑顔見てみたいなぁ…。




これが、初めて会った日に芽生えた小さな願望。









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