名無しの悪魔【ルキ】 ページ11
薄暗い校舎の影で何やら会話を交わす集団がいた。
彼らは揃って見るからにチンピラとわかるようなガラの悪い見た目をしている。
「全くよお、『名無しの悪魔』が何だっての！」
彼らの話題はとある生徒の事。
悪魔のように強い名称不明の男の話だ。
彼に襲われた者の多くは「名前を言えば殺される」と今も部屋で怯えているらしい。
「調子乗りすぎじゃねえのかそいつ。なあにが悪魔だ！ 下っ端たちを蹴散らしたからってそんな偉そうに」
心底気に入らないと言った風にその『悪魔』を罵る。
ここに集まる者たちはほぼ全員が、悪魔の実態を知らない。知っている者もいるが、彼らは我関せずと口を噤んでいる。──口に出そうものなら本当に来ると知っているからだ。
そう、こんな風に。
「どうせ雑魚だろ。悪魔だろうが、俺らなら一捻りだア゛ァッ！？」
きっと笑い飛ばそうと思ったのであろう男が横合いからの衝撃により吹き飛んだ。
その方向を見やれば、一人、男がダルそうに手を振っていた。
顔は逆光で暗く見え辛いが、こちらの人数に何の感慨も抱いていないのはわかる。
突然の乱入者にいきり立つ面々に、彼は飄々とした声を投げかけた。
「随分と楽しそうなオハナシしてるじゃねェか。俺も混ぜてくれよ」
ニコニコとした笑顔には凄みがのっていて、喧嘩慣れしているチンピラ集団も思わず息を飲む。
ゴキリ、と拳と首を鳴らす、その乱入者はいたってゆっくりと歩を進めた。……最初に殴られた一人の男は今だピクリともしない。
「俺の事を雑魚なんて言うぐらいだ。さぞかしオツヨイんだろ？ なあ、ならそんなに怯えなくても良いんじゃねーの」
「ッだ、誰が怯えてるってんだ！！ 舐めんなよ！！」
その言葉に先程乱入者──悪魔の事を罵っていた男が拳を振りかぶる。
それを首を少し横にずらすだけで避けると、悪魔は笑みを消した。
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作者名：氷渡ミオ | 作成日時：2018年9月14日 23時
