21話-8 哀れな男 ページ36
「フーッ……やれやれだ……。いいだろう、突いてみろッ」
承太郎はダンの方へ振り返る。あまりにも落ち着いた様子で動いたものだからダンは少し焦っているようだ。ナイフを見せつけるようにしながら喋る。
「あっ！ おい、わからねーのかッ！ 動くなと言ったは……はず、はず……――――え、え！？」
しかし、そのナイフを見せつけるようなポーズで、彼の体は固まった。
「どうした、ブツリと突くんじゃあねーのか。こんなふうに！」
そう言いながら承太郎はダンに歩み寄り、彼のナイフを持つ手をグッと顔面に押し付ける。彼は抵抗できず、ナイフは頬に突き刺さった。
「ギニャーッ！！ か、体が動かない……な、なぜ〜！？」
「やれやれ、自分で言ったじゃねーか。『スタンド』と『本体』は一心同体だとな」
「なっ……ゲッ！ なっ、なんだ、私のスタンドに何か巻き付いている！？」
「気づかなかったのか……。花京院は触手をお前のスタンドの足に結びつけたままお前を逃がしたようだな……。凧の糸のようにずーっと向こうから伸びてきているのに気付かねーとは、よほど無我夢中だったようだな」
きらりと視界の端に翡翠色の糸が映る。糸の先に玉結びのようになっているものが見えた。
つまりこれで私はラバーズの呪縛から逃れたという事になるのだろう。
「あっ……ひひいい――っ、ゆるしてくださ――――いッ」
「許しはてめーが殺したエンヤ婆に請いな……。俺たちははじめっからてめーを許す気はないのさ」
「そういうことね、せいぜいあの世で悔いなさい」
後は承太郎に任せて先に戻る。さっきの翡翠の糸が戻っていった方に花京院たちがいるのだろう。その方向へ私は歩き出した。
その背後では、承太郎がクソ野郎の面に千発叩き込む音が響いていた。
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作者名：中条琉乃 | 作成日時：2017年10月10日 22時
